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なぜ私たちには睡眠が必要なの? ヒトが「眠る」理由って?

2018.05.07

なぜ私たちには睡眠が必要なの? ヒトが「眠る」理由って?


睡眠不足になると心身に不調を来します。睡眠は人間にとって絶対に必要なものというわけですが、そもそも「なぜ人間は眠る」のでしょうか? 今回は「ヒトが眠る理由」について『筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構』(略称「IIIS」)の機構長である柳沢正史博士にお話を伺いました。

取材協力・監修


柳沢正史 博士


『筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構』機構長。

1960年東京生まれ。筑波大学医学専門学群・大学院医学研究科博士課程修了。31歳で渡米し、テキサス大学サウスウェスタン医学センター教授とハワードヒューズ医学研究所研究員を24年にわたって併任。2010年に内閣府最先端研究開発支援プログラムに採択されたことを受けて、筑波大学に研究室を開設。2012年より文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム『国際統合睡眠医科学研究機構』の機構長。1998年、その欠乏がナルコレプシーの原因となる脳内物質「オレキシン」を発見。2017年度の朝日賞を受賞。

■「睡眠」は大きな謎である

柳沢博士は、副機構長である櫻井武博士と共に、覚醒を維持する脳内物質「オレキシン」を世界で初めて発見するなど、睡眠研究における第一人者です。


――なぜヒトには睡眠が必要なのでしょうか?


柳沢博士 脳のある生物で眠らないものはありません。つまり「脳」と「睡眠」は切っても切れない関係にあるわけです。ですが、なぜ眠るのかという根本的な問題に対する回答はまだ得られていません。大きな謎です。


――たとえば、体や脳を休息させるために眠るといった説明がされますが?


柳沢博士 覚醒時と睡眠時の脳内のエネルギー代謝率を比較すると、睡眠時に10%減る程度で、ほとんど変わりません。


脳は、腎臓や肝臓など内臓臓器と同様に24時間働き続けているというのが本当のところなので、睡眠が脳を休息させるために必要というのは説明にならないのです。


――では睡眠とはどのような状態なのでしょうか?


柳沢博士 コンピューターにたとえて、


スイッチは入っているけれどもオフライン状態で、デフラグなどの何かメンテを行っているのが睡眠である


と捉えるのが一番当たっていると思います。CPU自体は動いているのだけれども覚醒時とは違うことをしている。でも、それが具体的に何なのかはまだ分かっていないのです。


たとえば、睡眠中に記憶を整理しているといわれます。それは恐らく正しいのですが、詳細はまだ明らかになっていません。

■ヒトはなぜ眠るのか

――睡眠についてはまだ大きな謎なのですね。


柳沢博士 睡眠についての二大クエスチョンは、

1.脳を持つ生物はなぜ眠らなければならないのか

2.「眠気」のメカニズムはどうなっているのか

です。「1」については根源的な謎ですが、「2」は専門用語では「恒常性制御」といいます。長く覚醒していると、何らかの仕組みで「睡眠-覚醒の制御システム」へのフィードバックが働いて睡眠を促すようになっています。


簡単に言うと、起きているうちに睡眠への誘いがだんだんたまっていって、それが眠りにつかせる。「ししおどし」のようなものですね。少しずつ水がたまっていって、ある一定の量になり睡眠をとるとカコーンと流され眠気がリセットされる。


――そのたとえは分かりやすいですね。


柳沢博士 そのたまっていく水に当たるものが何なのかが全く分かっていません。


たまっていくものは物質なのか、(ニューロンの)状態なのか、細胞内のシグナル伝達系なのか、またそれが脳のどこで行われているのか(そもそも局在・遍在※も含めて)分からない。


また、その累積的にたまる「何か」をカウントする仕組みもあるはずです。近過去の覚醒量を、しかも累積的に測る「何かカウンターのようなもの」があるはずなのです。


――なるほど。


柳沢博士 もっと分かりやすく言えば、「眠気」といわれるものの「本体」が何なのかが分からないということです。また、「睡眠-覚醒の制御システム」については、

・恒常性制御

・体内時計による制御

のふたつについて考えなければいけません。「恒常性制御」システムは睡眠の「量」と「質」をコントロールしています。一方の「体内時計による制御」システムは、概日リズム(サーカディアンリズム)に従って、「いつ眠るのか」というタイミングをコントロールしています。


このような「睡眠-覚醒の制御システム」を明らかにすることが、睡眠の謎を解き明かすために必要なのです。


――ありがとうございました。



生物は必ず眠るのですが「なぜ眠るのか」という大きな疑問についての回答はまだ得られていません。ですが、生物にとって睡眠が絶対に必要なものであることは確かです。


皆さんも、自分に必要な睡眠量を確保できるような生活習慣を身に付けるようにしてください。私たちには睡眠量を一定に保つための仕組みが備わっており、その睡眠量が満たされないと心身に不調を来してしまうのですから。

※局在は「どこか一部の場所にあること」、遍在は「あまねくあること・広くあちこちにあること」という意味です。この場合は、脳のどこかの部位が担当しているのか、あるいは脳全体・複数の部位が担当しているのか、すらも分かっていないということです。

■「睡眠の謎」に最新の科学で迫る

今回お話を伺った柳沢博士によれば、睡眠については「分からないことだらけ」だそうです。「人間はなぜ眠るのか?」という根本的な問いに対する答えはまだ見つかっていません。


アンケート調査で睡眠時間を聞いてみた調査はあるのですが、このデータはあくまでも自己申告。


「本当にその睡眠時間だったのか」を調べてみると、「6時間」と回答していたのに実は「4時間だった」「7時間だった」といったケースが散見されるのです。つまり、人間の睡眠についてきちんと調べた「基本的な客観データ」もまだないともいえます。


柳沢博士の研究チームでは、この基本的なデータを収集するため「1,000人」に対しての大規模な「睡眠調査」を実施しようとしています。この調査は、「より正確に、より科学的に私たちの睡眠の実態を明らかにしよう」とする、世界でも類例のない意欲的なものです。


また、その調査の結果、いわゆる「ショートスリーパー」や「ロングスリーパー」といわれる人が見つかったら、その人たちに対する遺伝子スクリーニングも視野に置いています。遺伝子に何か特徴があれば、「人間の睡眠の長短がなぜ起こるのか」といった根本的な秘密の一部が明らかにできるかもしれません。


大規模調査なこともあって、現状では残念ながら予算が足りていません。クラウドファンディングで皆さんからのご支援を募集していますので、ぜひ以下のページからご協力をお願いいたします!

『Readyfor』「人はなぜ眠る?最適な睡眠とは?「睡眠の謎」に最新の科学で迫る」

(高橋モータース@dcp)