睡眠についての説明では「レム睡眠」「ノンレム睡眠」という言葉がよく登場しますね。「レム睡眠」「ノンレム睡眠」は睡眠中に見られるふたつのモードのことです。睡眠は、このふたつが切り替わりながら進行します。しかし、なぜこのような2種類の睡眠モードがあるのでしょうか? いったいどんな違いがある? 今回は「レム睡眠とノンレム睡眠」について解説します。
取材協力・監修
柳沢正史 博士
『筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構』機構長。
1960年東京生まれ。筑波大学医学専門学群・大学院医学研究科博士課程修了。31歳で渡米し、テキサス大学サウスウェスタン医学センター教授とハワードヒューズ医学研究所研究員を24年にわたって併任。2010年に内閣府最先端研究開発支援プログラムに採択されたことを受けて、筑波大学に研究室を開設。2012年より文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム『国際統合睡眠医科学研究機構』の機構長。1998年、その欠乏がナルコレプシーの原因となる脳内物質「オレキシン」を発見。2017年度の朝日賞を受賞。
■「レム睡眠」「ノンレム睡眠」とは?
レムは「Rapid Eye Movement」(急速眼球運動)の略である「REM」を意味しています。不思議なことに、人間の睡眠(後述)には「急激に眼球が動く様子が観察できる睡眠期間」と、「そのような動きが見られない睡眠期間」があるのです。
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レム睡眠(REM Sleep)
眼球が急激に動く様子が観察される
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ノンレム睡眠(Non-REM Sleep)
眼球の急速な動きは観察されない
と区別されます。また一般的には、
・レム睡眠(REM Sleep)時には、体は休息しているが、脳は起きている
・ノンレム睡眠(Non-REM Sleep)時には、脳は休息している
と説明されます(後述)。
■実は脳は休んではいない!?
では、なぜこのような眠りのモードの違いがあるのでしょうか? 『筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構』(略称「IIIS」)の機構長である柳沢正史博士にお話を伺いました。
――「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」という違いはなぜあるのでしょうか?
柳沢博士 「まだよく分かっていない」というのが答えです。特に「レム睡眠」については何も分かっていないと言っていいぐらいです。
「ノンレム睡眠」については記憶を固定化するとか、記憶の整理をするといったことが以前からいわれています。しかし、レム睡眠の機能や意義ついては全くというほど分かっていません。
ごく最近、レム睡眠についても記憶に関与するといわれ始めていますが、詳細よく分かりません。昔からレム睡眠時には夢を見るといわれますが、実はノンレム睡眠時にも夢は見ます。
しかし、夢の質が違うのです。レム睡眠時の夢は、ノンレム睡眠時の夢と比べてはるかにビビッドで現実感があり、ストーリー性も高いことが知られています。
――脳の働きが異なっているのでしょうか?
柳沢博士 レム睡眠時とノンレム睡眠時の違いについて、一般にいわれる「レム睡眠のときは脳が起きていて、ノンレム睡眠時には脳が休んでいる」というのは間違っています。ノンレム睡眠時にも脳は活動しています。
脳のエネルギー代謝率はほぼ変わりませんし(10%程度下がる)、たとえば大脳皮質の神経細胞の平均活動量を計測してみるとノンレム睡眠時でもほとんど変化がないことが分かっています。
つまり睡眠は脳を休めるためにある、またノンレム睡眠時には脳も休息しているといった一般にいわれることは「うそ」です。脳という臓器は24時間働き続けているというのが本当のところです。
――レム睡眠・ノンレム睡眠という区別はほかの動物にもあるのでしょうか?
柳沢博士 レム睡眠は「鳥類」と「哺乳類」に見られます。進化の過程のどこかでそのプログラムが付加されたのだと考えられますが、それがなぜ起こったのかは分かりません。
鳥類・哺乳類に分化する前の「爬虫(はちゅう)類」を調べた研究もありますが、種によってずいぶん違うようです。現生爬虫類の中には確かに「レムっぽい睡眠」を行う種もあるということになっています。
ただし、種によって違うので、それが本当にレム睡眠の始まりなのかといった具体的なことはまだグレーゾーンです。
――なぜ睡眠にふたつのモードが生まれたのか不思議ですね。
柳沢博士 コンピューターにたとえて、スイッチは入っているけれどもオフライン状態で、デフラグなどの何かメンテを行っている状態が「睡眠」と捉えると分かりやすいかもしれません。
そのメンテ状態でも種類の違う脳の活動が必要で、そのために「レム睡眠」「ノンレム睡眠」が生まれたと考えられますが、まだよく分かっていないのが現状です。
――ありがとうございました。
柳沢博士は、現代神経科学最大のブラックボックスといわれる睡眠のメカニズムを解明しようとしています。現在はなぜ睡眠に「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」があるのかはまだよく分かっていません。しかし、やがて神経科学的にその仕組みが明らかになるときが来るでしょう。
■「睡眠の謎」に最新の科学で迫る
今回お話を伺った柳沢博士によれば、睡眠については「分からないことだらけ」だそうです。「人間はなぜ眠るのか?」という根本的な問いに対する答えはまだ見つかっていません。
アンケート調査で睡眠時間を聞いてみた調査はあるのですが、このデータはあくまでも自己申告。
「本当にその睡眠時間だったのか」を調べてみると、「6時間」と回答していたのに実は「4時間だった」「7時間だった」といったケースが散見されるのです。つまり、人間の睡眠についてきちんと調べた「基本的な客観データ」もまだないともいえます。
柳沢博士の研究チームでは、この基本的なデータを収集するため「1,000人」に対しての大規模な「睡眠調査」を実施しようとしています。この調査は、「より正確に、より科学的に私たちの睡眠の実態を明らかにしよう」とする、世界でも類例のない意欲的なものです。
また、その調査の結果、いわゆる「ショートスリーパー」や「ロングスリーパー」といわれる人が見つかったら、その人たちに対する遺伝子スクリーニングも視野に置いています。遺伝子に何か特徴があれば、「人間の睡眠の長短がなぜ起こるのか」といった根本的な秘密の一部が明らかにできるかもしれません。
大規模調査なこともあって、現状では残念ながら予算が足りていません。クラウドファンディングで皆さんからのご支援を募集していますので、ぜひ以下のページからご協力をお願いいたします!
『Readyfor』「人はなぜ眠る?最適な睡眠とは?「睡眠の謎」に最新の科学で迫る」(高橋モータース@dcp)