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大人になると味覚が変わるって本当?コーヒーやビールが好きになるのはなぜ?

2018.05.18

大人になると味覚が変わるって本当?コーヒーやビールが好きになるのはなぜ?


年齢によって「おいしい」と思うものが変わると思われませんか? たとえば子供の頃は苦手だった「サンマのワタのところ」が大人になってから大好きになった、なんて人もいらっしゃるでしょう。大人になると味覚が変わるというのは、本当のことでしょうか?今回は「味覚」について解説します。

記事監修



木村聡子 先生


耳鼻咽喉科医。日本耳鼻咽喉科学会専門医、医学博士。女医+(じょいぷらす)所属。

■そもそも「味覚」って何?

まず人間の「味覚」についてです。味覚は、

  • 酸味

  • 塩味

  • 甘味

  • うま味

  • 苦味

が構成要素で、この5つを「基本味」といいます。基本味には、生存するための基本的な情報が結び付いていると考えられています。

  • 酸味 ⇒ 腐敗したものから生じる ⇒ 警戒すべき

  • 塩味 ⇒ 生存に必要なミネラル ⇒ 摂取すべき

  • 甘味 ⇒ 生存に必要なエネルギーになる ⇒ 摂取すべき

  • うま味 ⇒ 生存に必要なアミノ酸 ⇒ 摂取すべき

  • 苦味 ⇒ 有害な毒物 ⇒ 警戒すべき

というふうに、味を感知したらそれを脳に送って、「食べる」「食べない」と行動を選択するわけです。


実際、新生児にもちゃんと味覚があって「おいしい」「まずい」を感じています(言葉がしゃべれないので、味の付いた溶液を口に注ぎ入れて表情で判断する、という実験を行った結果)。赤ちゃんの口に苦いものを入れると、吐き出したり、口をヘの字に曲げたりするのです。


ちなみに「辛味」「渋味(しぶみ)」は、広い意味で味覚に入りますが、基本味とは性質が異なっています。

  • 辛味

    味細胞(後述)ではなく、温度を感知するタンパク質で受容される感覚です。トウガラシなど辛いものを食べたときに「ヒリヒリする」などを感じますが、これは「熱い」ことを感知しているのです。

  • 渋味

    味細胞でも、また味細胞以外でも感知される感覚で、そのため「部分的には痛覚、部分的には味覚」という「味」です。味細胞で感知されると苦味になるため、渋味は基本味である苦味の一種なのです。

人間の「味」の知覚は、基本味五つ、これに広義の味「辛味」と「渋味」を加えた計七つの味で構成されるのです。

■どこで味覚を感じている?

次に人間が味覚を感じる仕組みについて見てみましょう。


舌の表面にはざらざらしたつぶつぶがたくさんありますが、これが舌乳頭(ぜつにゅうとう)と呼ばれるもので、

  • 糸状乳頭

  • 茸状乳頭

  • 有郭乳頭

  • 葉状乳頭

の4種類があり、糸状乳頭以外には「味蕾(みらい)」があります。基本味を感じるセンサーは「味蕾(みらい)」にある味細胞です。味細胞には上端に絨毛(じゅうもう)があって、ここに味物質が触れると、味神経を介して脳に信号が送られるようになっています。


ちなみに味蕾は舌だけではなく、口内のほかの場所(軟口蓋、喉頭蓋、咽頭)にも存在し、約1万個あるといわれています。

■「おいしい」ってどういうこと? どのように決まるの?

「おいしい」という認知は味覚だけでもたらされるものではありません。

  • 味覚

  • 嗅覚

  • 触覚

  • 視覚

  • 聴覚

の五感を使い、舌、口内粘膜、鼻、歯、手、目、耳それぞれの感覚器官から送られた情報を基に、総合して脳で「おいしい」と認知しています。

  • その食べ物の匂い(嗅覚)

  • 手触り、舌触り、歯触り(触覚)

  • その食べ物の見た目(視覚)

  • 調理時の音、食べたときの音(聴覚)

などが「おいしい」と認知されるための重要な要素になるのです。また、味覚センサーの開発で知られる都甲潔先生の『味覚を科学する』(角川選書,平成14年11月10日発行,pp.68-69より引用)によれば、五感による認知だけではなく、

  • 食事環境

  • 経験

  • 食文化・食習慣

  • 食情報

  • 心身の状態(空腹かどうか・健康かどうか、など)

も関係している、とのこと。都甲先生は、

(前略)これら五感以外のファクターは、五感の組み合わせ方を変える、と考えるのである。


最も簡単に、おいしさが味覚、嗅覚、触覚、視覚、聴覚のそれぞれに対応したセンサー出力にある係数をかけた和で表されると考えよう。その係数が、食事環境、経験、食文化・食習慣などで変わるのである。


もちろん、たとえば味覚そのものも酸味、塩味、甘味、うま味、苦味の素要素で与えられ、その組み合わせも食事環境、経験などで変わる。

と解説していらっしゃいます(引用元は上記)。つまり「おいしさ」は、味覚のみならず、五感、さらには経験や現在の心身の状態までが反映されて感じられるもの、というわけです。

■大人になると「おいしさ」は変化する?

では年齢と共に「おいしさ」は変化するのでしょうか? おいしさとは上記のようなものですから、答えは「イエス」です。


上記のように「苦味 ⇒ 毒かもしれない ⇒ 摂取すべきでない」といった基本的な「好き・嫌い」反応から始まって、経験・知識などによって「おいしさ」の感じ方も変化していくのです。


コーヒー、ビールなど「苦味」を含んだものが、「大人になってから好きになったもの」に多く挙げられるのは偶然ではありません。上記のように、デフォルトの反応では「避けるべきもの」である苦味が、知識・経験などを得ることによって摂取できるようになるからです。


おいしさを構成する要因として、

1.生理的な欲求に合致したおいしさ

2.文化に合致したおいしさ

3.情報がリードするおいしさ

4.偶然に発見された食材による薬理学的なおいしさ

がある、とされます(京都大学・伏木亨先生がまとめたもの:上記の都甲先生の著作P.65-66より引用)。


コーヒーやビールの苦味、コカ・コーラなどは4に当たり、「多分に薬理学的なおいしさがある」とのこと。都甲先生は、

実際、コーヒーや(発売当初の)コカ・コーラには興奮薬としての効能があった。最初は決してそれほどおいしいとは思わなかったはずである。好奇心も多分に手伝っていたことだろう。食にはこういった「最初は好奇心、あとはおいしい」といった面がありそうだ。

と述べていらっしゃいます(引用元は同上)。


「脳や味蕾などハードウエアが変化するのではなく、経験や知識によって、いわばソフトウエアが変化する」ために起こる「おしいさの変化」があるわけです。


しかし一方で、高齢者になると味蕾が少なくなり、そのために味覚の嗜好(しこう)が変化することがあります。また、ストレスが味覚に影響を与えることも知られていて、「苦味をおいしいと感じるのはストレスのせい」といった説はそのような例です。こちらは上記の「心身の状態」による「おいしさの変化」になりますね。



「おいしさ」は年齢と共に変化しますが、これは主に情報・経験・知識など(ほかに環境・心身の状態)が影響を与えているものと考えられます。読者の皆さんの「大人になってからおいしいと感じるようになったもの」は何ですか?


(高橋モータース@dcp)