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「女性は地図が読めない」「B型はマイペース」 無意識に潜む「ステレオタイプ」とは?

2018.06.12

「女性は地図が読めない」「B型はマイペース」 無意識に潜む「ステレオタイプ」とは?


「女性は地図が読めない」、「B型はマイペース」、「大阪府民はおしゃべり好き」。おそらく誰もが一度は会話の中で口にしたことがあるのではないでしょうか。こうした世間一般に浸透している先入観や、ありがちな思い込みなどは、「ステレオタイプ」と言います。


でも実際のところ、女性だからという理由で地図が読めないわけはないし、せっかちなB型の人もいるし、寡黙な大阪府民もいます。それなのに、どうしてこのようなステレオタイプが広まり、私たちの認識の中に居座っているのでしょうか。帝京大学文学部心理学科准教授の大江朋子先生にお話を伺いました。

取材協力・監修


大江朋子 先生


東京大学大学院人文社会系研究科で博士号を取得後、清泉女学院大学講師などを経て、現在は帝京大学文学部心理学科准教授。専門は社会心理学、社会的認知。日本心理学会や日本社会心理学会に所属。著書に「個人のなかの社会」(誠信書房)、「偏見や差別はなぜ起こる? 心理メカニズムの解明と現象の分析」(ちとせプレス)など。

■幼少期から植え付けられる「集団に対するイメージ」


――そもそもステレオタイプとはどういうものでしょうか?


大江先生

簡単に言えば、集団に対して抱くイメージのことです。「この人たちはこういう考えや性質を持っている」というイメージがステレオタイプで、その型に個人をあてはめることをステレオタイピングと言います。


――日本の社会で、よく耳にするステレオタイプにはどんなものがありますか?


大江先生

性別や年齢のステレオタイプなどいろいろありますが、日本で独特なものは、血液型のステレオタイプで、A型は〇〇、B型は△△……などです。実際のところ、いまの心理学の調査では、血液型による性格の違いはないと結論づけられています。


――誤った情報なのに、血液型診断は、なぜこんなに広まってしまったのですか?


大江先生

さまざまな要因はあると思いますが、ひとつは単純でわかりやすいからでしょうね。人間はこういうものだ、血が違うということは性格も違うかもしれない……など、違いや法則を見出そうとする傾向が人間にはあるんです。もちろんそう考える傾向に個人差はあります。ABO式の血液型は、わずか4種類なので、シンプルでわかりやすいというのが拡散された要因だと考えられます。ただしこれは日本だけで、海外にまでは広まっていません。


――そういったステレオタイプが世間に浸透する理由には、メディアの影響があるのかなと思います。


大江先生

そうですね。一旦イメージができると、テレビや映画、広告などでそのイメージのまま取り扱われやすくなります。女性なら家事をしているシーン、男性なら仕事をしているシーンなどがわかりやすいでしょう。すでにイメージがつくられていると、それとは異なるシーンを見ると、視聴者はスッと頭に入ってこない感じがするんです。幼少期からテレビなどでよく見る光景だと、次第に「そういうものだ」と認識してしまいます。

■ステレオタイプと偏見の違いは?


――ステレオタイプは、度が過ぎると差別にも繋がりますよね。偏見との違いとしてはどのように定義されますか?


大江先生

実は明確に定義するのは難しく、研究者によっても考えが違います。たとえば、ステレオタイプはポジティブなものもネガティブなものも含まれているけれど、偏見は否定的なものだけと言う人がいます。でも最近の考え方としては、ポジティブでもネガティブでも偏見は偏見というものが多くなっています。


――それでは、ステレオタイプと偏見は同義という見方もあるということですね。


大江先生

違う見方では、ステレオタイプはイメージの内容を指していて、偏見はそれに感情が入ってくるものだという考えもあります。「女性は家事をする」という内容がステレオタイプで、そこに尊敬や軽蔑などの感情が入っていたら偏見。とはいえ、内容の時点ですでにポジティブ・ネガティブの感情の要素が含まれることもあるので、分ける必要があるのかどうかは疑問なところです。

■自分の発言や行動が誰かを傷つけているかもしれない


――ステレオタイプは、それを言われてもなんとも思わない人もいれば、不快に思う人もいるのが問題ですよね。


大江先生

集団として見て、個人を見ずに型にはめてしまうことで、いろいろな問題が起こります。自分のいる集団に対してネガティブな印象が抱かれている場合、そのネガティブなイメージで接せられることで最終的には健康悪化につながったり、生死に関わったりするのが最悪なケースです。


――ステレオタイプを払拭することは難しいのでしょうか?


大江先生

難しいと思います。社会全体で、そういうイメージで接するのは間違っているということを理解する必要があります。イメージをなくすための運動も必要かもしれません。社会レベル、個人レベルの両方で努力することが求められます。


――個人レベルで、ステレオタイプにとらわれないためには、どのような努力をすればいいのでしょうか。


大江先生

まずは、ステレオタイプが人に対してどういう影響を与えるのかを知ることだと思います。どんな発言や行動がステレオタイプによるものか、人を傷つけるのかというのは、普通に生活していたら実はなかなか気付けないものなんです。もしかしたら自分はステレオタイプや偏見を持っていて、差別をしているかもしれない。その可能性に気付くのが第一歩です。


――具体的にはどのようにして知っていけばいいのでしょうか?


大江先生

心理学の書籍を読んだり、講義を受けたりするのがいいと思います。ステレオタイプの影響力は、実験や調査の結果からはじめてわかってくるものなんです。1980年代くらいから、国内でもステレオタイプに関する研究は盛んになっていて、さまざまな実験や調査がなされています。そういったものから得られた知見を学ぶのが一番だと思います。


――気付き、学ぶことが大事ですね。先ほどもおっしゃっていたように、幼少期から持っているイメージを払拭するのは簡単ではなさそうです。


大江先生

そうですね。ステレオタイプがどう働くかを知ったうえで、人の多様性を認めて、理解する姿勢を常に持っておくことはできます。女性に対しては「能力はそれほどないけど、やさしいし、気立てはいい」というステレオタイプがつきまといます。今の社会の人たちがそう思っていると、これから生まれてくる女の子たちはその型にはめられてしまい、育ちません。社会に出てからは能力があっても「女のくせに」と叩かれるかもしれません。そんな状況を続けず、個人を尊重するためにも、ステレオタイプや偏見を理解して社会が変わっていくことが重要です。



大江先生のお話を聞いて、改めて私たちの生活の中にステレオタイプは散りばめられていることを痛感しました。とはいえ、イメージは誰でも抱くもの。それが無意識のうちに、偏見や差別を生み出す可能性があることを理解しておきましょう。


(取材・文:阿部綾奈 編集:ノオト)