たとえば人工授精は1~3万円/回、生殖補助医療は20~70万円/回かかる場合もあり、不妊・不育症の治療には多くの費用が必要となります(※記事末のURLのP.3を参照)。国・地方自治体から支給される「助成金」もありますが、それ以外に治療の金銭的負担を減らす方法はないのでしょうか?今回は、妊活・不妊治療専門FPの宮野真弓さんに、「不妊・不育症治療費の負担を減らす方法」「治療費を上手に貯めるコツ」を教えてもらいました。
取材協力・監修
ファイナンシャル・プランナー 宮野真弓さん
不妊治療(体外受精)を経て3人の息子を出産した、妊活・不妊治療のお金の専門家、ファイナンシャル・プランナー。FPオフィスみのりあ代表。大学卒業後、証券会社、銀行を経て独立系FP会社に入社。個別相談、家計簿診断、執筆、セミナー講師、資格講座講師などを数多く担当する。不妊治療に専念するため同社を退社し、長男出産後、開業。「妊活、妊娠、出産、育児をハンデにしない社会の実現」を目指し、子どもを望む家庭やファミリー世帯に向けたセミナー、執筆、個別相談に注力している。また、転職、起業、不妊治療といった自身のさまざまな経験を活かし、ママの起業や再就職など、女性の夢の実現も応援している。
■FPオフィスみのりあ
https://fpoffice-minoria.jimdo.com/
■宮野さんブログ「妊活、不妊治療、育児、起業にまつわるお金の話」
■「助成金以外」に治療の金銭的負担を減らす方法はある?
―前回は不妊・不育症治療の助成金についてお伺いしましたが、助成金をもらう以外に、治療の金銭的負担を減らす方法があれば教えてください。
宮野さん:
助成金以外に治療費の負担を減らす方法としては、医療費控除があります。医療費控除とは、自分や生計を一にする家族のために1年間(1月~12月)に支払った医療費が一定額を超えた場合に、確定申告により税金が減額される制度です。医療費控除の金額は次の計算式で求めます。
医療費控除の金額=前年に支払った医療費の総額-医療費を補填する保険金や助成金などの金額-10万円(※)
※その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額
医療費控除はこの式で算出された金額が減額されるわけではなく、その金額に所得税と住民税の税率を掛けた金額が減額されます。
所得税は所得が多い人ほど税率が高くなります。たとえば、課税所得金額が330万円超~695万円以下の人の場合、所得税の税率は20%です。住民税は一律10%です。課税所得金額が600万円の人が、不妊治療に100万円かかり、特定不妊治療費助成制度により30万円の給付金を受け取った場合、
医療費控除の金額=100万円-30万円-10万円=60万円 60万円×(20%+10%)=18万円
となり、所得税と住民税合わせて18万円減税されます。
■治療費を上手に貯めるには?
―今はまだ結婚してないけど出産願望があって、年齢的にも不妊・不育症治療を受ける可能性が考えられる場合、金銭面に関してどんな対策を講じておけばいいでしょうか?
宮野さん:
結婚にもお金がかかりますし、子どもを望むのであれば不妊・不育症治療が必要になる場合もあるので、貯蓄についてあらためて考えるといいですね。
出産後は、教育費、住宅購入費に老後の生活費と、お金がかかる場面がさらに増えます。一方、不妊治療と仕事との両立のために収入が減る場合もありますし、妊娠後は産休、育休、時短勤務などで収入が減る場合が多く、どうしても貯蓄ペースは落ちてしまいます。
一般的な貯蓄の目安として、「手取り収入の20%」という数値がよく挙げられますが、子どもがいない時期はお金の貯めどきですので、年齢に関わらずさらに上乗せして貯蓄しておくと安心です。
最初の目標は100万円。100万円あれば、一通りの不妊検査をして、体外受精にもチャレンジできるはずです。200万円あればさらにゆとりをもって不妊治療に臨めます。もし不妊治療が必要なかった場合には、教育費や住宅購入の頭金など使いみちは自由ですので、とにかくコツコツ貯蓄するクセを付けましょう。
上手に貯蓄するコツは、「先取り貯蓄」をすることです。先取り貯蓄とは、生活費の残りを貯蓄するのではなく、先に貯蓄をしておいて、残りの金額でやりくりする方法です。財形貯蓄や金銭機関の自動積立などを利用して、自動的に貯蓄ができる仕組みを作ったり、先取り貯蓄の口座を生活費の口座とわけてお金を下ろしにくくしたりすれば、しっかり貯めることができます。
また、子どもを望むかどうかにかかわらず、投資も検討してみてください。手数料が低い商品や少額から買える商品が増えていますし、電子マネーやクレジットカード決済のおつりで投資をするアプリなども登場しています。NISAという税制優遇制度もありますので、資産形成の選択肢のひとつとして考えてみてください。
―ありがとうございました。
出産や子育てはお金がかかるものですし、不妊・不育症治療が必要になったらなおのこと。なるべく早めに準備するに越したことはありません。まずは「手取りの20%以上」を目標に、貯蓄を始めてみるといいかもしれませんね。
(取材・文 松本玲子)
参照:
⇒①第1不妊に関する現状)不妊専門相談センター報告書 |平成 30 年 1 月 厚生労働省 政策統括官付政策評価官室 アフターサービス推進室
http://www.mhlw.go.jp/iken/after-service-20180119/dl/after-service-20180119_houkoku.pdf