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日本人は「不安を感じやすい」って本当? 遺伝子に見る日本人の特質

2018.07.04

日本人は「不安を感じやすい」って本当? 遺伝子に見る日本人の特質


「日本人は世界一不安を感じやすい」なんて話を聞いたことはないでしょうか? 世界一かどうかは疑問ですが、日本人の多くが「不安傾向が強い」ということはどうも本当のようなのです。その理由とは、いったい? 今回は「遺伝子に見る日本人の特質」について解説します。

記事監修



藤野智哉先生


精神神経科医。秋田大学医学部卒業後、愛知県にて初期研修終了。

現在は愛知県にて某大学付属病院精神科勤務をしつつ某美容皮膚クリニックの外来も担当しています。

医師+(いしぷらす)所属。


▼インスタグラム

http://www.instagram.com/fujinofujino

▼詳細プロフィール

https://mycarat.jp/experts/281

■「セロトニン」が減ると不安・抑うつ的な気分になる

「日本人には不安遺伝子を持つ人が多い、そのため不安を感じやすい」といわれます。この「不安遺伝子」というのは「セロトニントランスポーター遺伝子」のことです。


このセロトニントランスポーター遺伝子の説明の前に、まず「セロトニン」について解説しましょう。


セロトニンというのは神経伝達物質で、「覚醒を促す」「体温の調節」といった生理作用のほか、情動にも関わっています。セロトニンの量が不足すると、不安感が強まったり抑うつ的な気分障害が起こったりします。精神疾患(mental disorder)のひとつである「うつ病/大うつ性障害」では脳内セロトニン量が不足しているといわれているのです。

■神経が情報を伝える仕組み

ここで神経伝達物質が情報を伝える仕組みを見てみましょう。


情報伝達を行う神経と神経の間には隙間が空いています。神経と神経がしっかり結び付いていると、頭をぶつけた衝撃などで神経がちぎれたりする可能性があります。そのようなことのないよう、安全策として隙間が空いていると考えられています。


神経と神経の間に隙間がありますので、情報を伝達するために情報を送る側の神経の末端から「神経伝達物質」を放出し、情報を受け取る側の神経の先端がキャッチするという仕組みになっています。


情報を送る側の神経の末端を「Pre(プレ)側」、情報を受ける側の神経の先端を「Post(ポスト)側」といいます。

■「トランスポーター」は回収屋

神経伝達物質セロトニンでは、Pre側からセロトニンが放出されると、Post側ではセロトニン専用の窓口が待ち構えていて、セロトニンをキャッチします。神経伝達物質ごとの専用窓口を「受容体」といいます。セロトニンの場合なら「セロトニン受容体」です。


これでPre側からPost側へ情報の受け渡しが行われますが、セロトニンが放出されっ放しではいつまでも情報伝達が続くことになります。余分なセロトニンを回収してPre側へ戻し、情報伝達の「停止」を行う必要があります。


これを「(神経伝達物質)トランスポーター」というタンパク質が担当します。受容体と同じく、神経伝達物質ごとにトランスポーターがいて、セロトニン専用のトランスポーターが「セロトニントランスポーター」というわけです。

■「セロトニントランスポーター」の働きで気分が決まる

上記のとおり、セロトニンの減少は抑うつ的な気分を高めることが分かっています。そこで、セロトニントランスポーターの働きを阻害し、分泌されたセロトニンを回収させないようにすることでセロトニン濃度の維持を図ることができます。


これを行うのが「(選択的)セロトニン再取り込み阻害薬」というもので、この作用を持つ「抗うつ剤」が実際に使われています(「選択的」は特にセロトニンのトランスポーターだけ狙って働くという意味です)。


薬にも実際に使われていることから分かるとおり、セロトニントランスポーターがよく働く・働きにくいことによって人間の気分を、抑うつ的・抑うつ的ではないとコントロールできるわけです。


セロトニントランスポーターの数がたくさんあれば、セロトニンを回収しやすく「よく働く」、数が少なければ回収しにくくなり「働きにくい」ことになりますね。


実はこのセロトニントランスポーターの数は人によって違います。セロトニントランスポーターを多く持つ人と、セロトニントランスポーターが少ない人がいるのです。

■「セロトニントランスポーター遺伝子」で性質が決まる

セロトニントランスポーターの多い・少ないを決めているのは「セロトニントランスポーター遺伝子」です。セロトニントランスポーター遺伝子には「S型」と「L型」があります※1。このS型がセロトニントランスポーターの数を少なくします。


ヒトは、S型とL型の組み合わせで、

・SS型

・SL型

・LL型

の3タイプに分かれます。これまでの研究で、


●SS型

・SL型、LL型の人と比較して「不安傾向」「損害回避」「注意衝動性」が高い。

・LL型の人と比較して「抑うつの発症率」「神経症の発症傾向」が高い


●SL型

LL型の人と比較して「抑うつの発症率」「神経症の発症傾向」が高い


ということが分かっています。そのため、セロトニントランスポーター遺伝子のことを「不安遺伝子」「恐怖遺伝子」と呼ぶわけです。


※1遺伝子の「塩基の繰り返し配列」の長さが違います。短いものがShort(S)、長いものがLong(L)です。

■日本人には「SS型」が多い!

あまりうれしくない話かもしれませんが、日本人の多くが「不安傾向」の強いSS型であることが指摘されています。たとえば1997年に発表された論文※1では、調査した173人のうち、118人(68%)がSS型であることが分かりました。


また1996年に発表されたアメリカ人を被験者にした研究※2では、505人のセロトニントランスポーター遺伝子の型は、

・SS型:95人(18.8%)

・SL型:247人(48.9%)

・LL型:163人(32.2%)

でした。


このような結果をもって、日本人は「不安傾向」が強いといわれるのです。


日本人は遺伝子的に「不安傾向」の強い人が多いといわれますが、「慎重である」ともいえます。不安傾向が強いからこそ「堅実に、着実に物事をなす」ことが日本人の美徳になっているともいえるのではないでしょうか。


(高橋モータース@dcp)

※1

⇒データ出典:

『Wiley Online Library』「Serotonin transporter gene regulatory region polymorphism and anxiety‐related traits in the Japanese」

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/%28SICI%291096-8628%2819970919%2974%3A5%3C544%3A%3AAID-AJMG18%3E3.0.CO%3B2-C


※2

⇒データ出典・論文:

「Association of Anxiety-Related Traits with a Polymorphism in the Serotonin Transporter:Gene Regulatory Region」

http://people.westminstercollege.edu/students/ap0524/Association%20Anxiety%20Serotonin.pdf