自分より優れた能力を持つ人や、成功している人を見ると嫉妬心が湧くこともあるでしょう。この、「妬(ねた)み」の感情は誰もが持つものですが、女性よりも男性のほうが強いといわれます。これは本当のことで、脳の研究によっても検証されているとのこと。今回は「妬みの感情」についてです。
記事監修
藤野智哉先生
精神神経科医。秋田大学医学部卒業後、愛知県にて初期研修終了。
現在は愛知県にて某大学付属病院精神科勤務をしつつ某美容皮膚クリニックの外来も担当しています。
医師+(いしぷらす)所属。
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■「妬み」は脳の中でどのように観測される?
「妬み」の感情を抱くと、脳の「前帯状皮質」という部位が活性化されることが分かっています。これは脳活動を機能的MRI(fMRI)で観測した結果です。妬みの感情が強くなるとこの部位の活動レベルはさらに上がります。
たとえば、AさんとBさんのふたりがいて、あなたがAさんのほうをより妬んでいたとします。その場合、Bさんを思い浮かべたときよりも、Aさんをイメージしたときのほうが前帯状皮質の活性が強くなるのです。
■「他人の不幸は蜜の味」を「シャーデンフロイデ」といいます
妬みの対象となるような人が失敗すると、「ザマーみろ」とそれを喜ぶ感情が多少なりとも湧くのではないでしょうか。「他人の不幸は蜜の味」というやつです。この感情を「schadenfreude(シャーデンフロイデ)」といいます。
英語の論文を見ても、なぜか「schadenfreude(シャーデンフロイデ)」※とドイツ語で書いてあるのですが、英語では(そして日本語でも)これに当たる、一語で表すことができる言葉がないのです。そこでドイツ語から借用して「シャーデンフロイデ」とそのまま記載しています。
メディアにもよく登場する脳科学者の中野信子先生は、このシャーデンフロイデについて、“ネットでよく使われるスラング「メシウマ」に相当する”と指摘されています。確かに、言い得て妙ですね。
■「シャーデンフロイデ」は脳の中でどう観測される?
シャーデンフロイデは心理学のみならず、生理学的な研究対象になっていて、京都大学大学院医学研究科の高橋英彦博士が2009年に発表した研究が特に有名です。
高橋先生の研究では、シャーデンフロイデの感情が起こったときに脳の「線条体」が活性化することがfMRIによって観測されました。この線条体は快感を感じたり、やる気を起こしたりするときに活発になる部位です。つまり、シャーデンフロイデは「喜び」「やる気」を引き起こすのです。
さらに、高橋先生の研究で上記の前帯状皮質の活性化と線条体の活性化には相関があることが分かりました。つまり、妬みの感情が強いほど喜びの感情も大きくなるのです。より強く妬んでいた対象が失敗するほど喜びも大きい、というわけです。
では、妬みの感情は男女で差があるのでしょうか? 答えは「イエス」で男性のほうが強いと考えられています。中野信子先生のたとえを使うのであれば「メシウマ」は男性のほうが強く感じるのです。
⇒参考文献・論文:
「When your gain is my pain and your pain is my gain: neural correlates of envy and schadenfreude.」
「妬み」は恥ずべき感情といわれることが多いですが、しかし妬みの感情を持つからこそ頑張れるという面もあります。高橋先生も論文の中で述べていらっしゃいますが、もし妬みが要らないものであったら進化の過程で放り捨てられていてもおかしくありません。妬みの感情は「必要だから今も私たちの中に残っている」とも考えられるのかもしれませんね。
※確かに一語なのですが、ドイツ語にはどんどん単語をつなげるという特性があって、このシャーデンフロイデも「schaden(損害・痛み)」と「freude(喜び)」をつなげた言葉です。
(高橋モータース@dcp)