女性は40歳前後~50歳前後になると、それまでにあまり経験したことがない不調にとまどうことがあると言います。特に病気はないのに、前触れもなく突然汗が出てくる、顔はほてっているのに手足は冷たい、ささいなことでカッカする、妙に不安に襲われる……。女性の不調に詳しい臨床内科専門医で正木クリニック(大阪市生野区)の正木初美院長は、「それらの症状は、更年期にさしかかると現れる体の変化のサインです。仕方がないとあきらめずに、対策を考えてみましょう」とアドバイスをします。詳しいお話を聞いてみました。
取材協力・監修
正木初美氏
日本臨床内科医会専門医、大阪府内科医会理事、日本内科学会認定医、日本医師会認定スポーツ医、日本医師会認定産業医、正木クリニック院長。内科、リハビリテーション科とともに、更年期外来、禁煙外来、漢方治療を行っている。
正木クリニック:
大阪府大阪市生野区桃谷2-18-9
■更年期は閉経の前後5~10年間。30代後半からのケースも
「更年期という言葉はよく耳にするけれど、何となく理解した気になっているという人は多いようです」と話す正木医師は、女性の更年期の年代についてこう説明をします。
「閉経の前の5年間前後と、後の5年前後を合わせた10年前後の期間を指します。日本の女性の閉経年齢は平均だと約50歳ですが、個人差は大きく、早い人だと40歳前後、遅い人で60歳前後で閉経を迎えます。そして『更年期障害』と言う言葉があるように、この期間は体や精神状態にいろいろな不調が現われる可能性が高くなります」
■更年期障害の原因は、女性ホルモンの急な現象
正木医師は、更年期に現れる不調の原因について、こう説明を続けます。
「閉経は、卵巣の活動性が低下し、女性ホルモンのひとつであるエストロゲンの分泌量が急激に減少することで起こります。月経が停止する前から、月経の間隔があく、日数が減る、経血量が減少するなどの変化がみられます。
エストロゲンの分泌をコントロールする脳の視床下部(ししょうかぶ)にある下垂体(かすいたい)と呼ぶ部分は、『分泌しろ』という指令を出しますが、十分に分泌されない、さらに指令を出す、しかし分泌されないという状態がくり返されます。
それが続くと、下垂体は、体が指令通りに働かないことに混乱を来します。下垂体は自律神経のバランスを保つ働きもあるため、更年期では自律神経の乱れをまねきやすくなります。これが、複数の症状を引き起こす原因となります」
■更年期障害の具体的な不調をチェック
更年期の不調は実に多岐に渡ると言われます。正木医師は、
「更年期の代表的な症状には、肩こり、疲れやすさ、頭痛、のぼせ、腰痛、ホットフラッシュと呼ばれる急な発汗、イライラや精神不安などがあります。これらの症状が日常生活に影響を及ぼすほど深刻になると『更年期障害』と診断します。
不調はひとつではなく複数に渡りますが、次のような症状がひとつでも気になれば、『自分は更年期』だととらえ、備えを始めましょう」と、事例を挙げます。
-
突然に顔や上半身がほてる
-
大量に汗をかく
-
寝つきが悪い、寝ても眠りが浅い
-
気が立って、イライラしやすい
-
いつも不安を感じる
-
ささいなことが気になる、くよくよすることが多い
-
やる気が出ず、疲れやすい
-
めまい、立ちくらみがよくある
-
動悸(どうき)や胸がしめつけられる感じがある
-
頭重感、頭痛がある
-
肩や首がこる
-
手足の節々に痛みを感じる
-
手足に冷えやしびれがある
-
以前は気にならない音に敏感になった
-
のどがつかえる感じがある
■自律神経のバランスを整えるために、生活習慣を見直す
次に正木医師は、更年期の不調を見つめるポイントをアドバイスします。
「先に述べたようなさまざまな症状に悩まされ、日によって時期によって症状の程度や症状そのものが変わったり、いくつも重なったりします。さらに、深刻な症状に悩まされる人もいれば、あまり支障なく過ぎる人もいます。
どのような場合でも、症状が現れる背景には自律神経のバランスの乱れがあることは確かであるため、まず何よりも、これを整えるよう、次のように生活習慣を見直しましょう」
-
ウォーキングとストレッチなど、適度な運動を習慣にする
-
できるだけ気持ちを前向きに持つように心がける
-
栄養のバランスが良い食事をとる
-
体内でエストロゲンと似た働きをする大豆イソフラボンを含む食品を積極的にとる
-
睡眠時間や環境を工夫し、量と質とも充実した睡眠をとる
-
自分なりのリラックス法を習慣にし、ストレスをためこまない
-
冷えは大敵なので、一年中、常に体を温める工夫をする
-
冷え対策、ストレスケアに、入浴時はシャワーだけでなくお湯につかる
■生活やコミュニケーションに支障が出れば受診を
また、市販の薬で対応できるのかについて、
「更年期の症状は、年齢を重ねるうえで自然な変化であるとも考えられます。ですから、症状のすべてをすぐに解消するような薬はありませんが、症状ごとに、合った市販薬を用いことはできるでしょう。体質ごとに複数の症状に対応する漢方薬を選ぶ方法もあります。薬の選び方については、自分で判断するのではなく、薬局の薬剤師に相談するのがベストでしょう」と正木医師。
市販薬は対症療法として利用するとして、不調が深刻な場合のケアについて、正木医師はこう話します。
「倦怠(けんたい)感が強い、朝起き上がれないほどつらい、寝不足が続く、気分の落ち込みやいら立ちが激しいといった状態で、仕事や日常生活が辛い、人とのコミュニケーションに支障をきたすような場合には、迷わずに早めに、内科や婦人科、また『更年期外来』をうたう医療機関を受診してください。
治療では、減少した女性ホルモンを補充する方法、睡眠をケアする、また不安やうつ傾向が強ければそれらをやわらげる薬を用いる、さらにカウンセリング療法が行われることもあるでしょう。
これを機会に女性特有の心身のトラブルを相談できるかかりつけ医を持つことも、今後のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)にとって重要だと思います」
■更年期は誰もが経験する期間。怖れず自然体で
最後に正木医師は、更年期を控えた女性、渦中にいる女性に対して、次のアドバイスを加えます。
「更年期は、女性であれば誰もが経験する期間です。必要以上に怖れたり、身構えたりする必要はありません。女性ホルモンの急激な減少というのは体の大きな変化ですから、何らかの影響があって当然です。苦しい症状に悩む場合もあるかもしれませんが、いずれ大きな変化に、体が慣れるときが来るでしょう。変わり目の時期をできるだけ前向きに過ごせるように、更年期をよく理解したうえで、自然な現象と考えて過ごしましょう」
更年期の「更」の字は、「さらに」や「あらためる」といった意味をもつとか。女性の人生のリスタートの時期ととらえて、できるだけ自分らしくつき合いたいものです。
(取材・文 ふくいみちこ×ユンブル)