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漢方専門医が教える。夏バテの原因は「暑邪」と「湿邪」。対策の漢方薬とは? 

2018.07.05

漢方専門医が教える。夏バテの原因は「暑邪」と「湿邪」。対策の漢方薬とは? 


気象庁の見通しでも実感としても、今年の夏も猛暑が続きそうです。連日熱帯夜だと、食欲、体力ともに低下する夏バテが心配です。「漢方では、夏バテは『暑邪(しょじゃ)』、『湿邪(しつじゃ)』からくる心身の不調と考えます」と話すのは、漢方専門医で臨床内科専門医、また消化器内視鏡専門医でもある吉田クリニック(大阪府八尾市)の吉田裕彦院長。漢方の知恵を生かした猛暑の乗り切り方を吉田院長に聞きました。

取材協力・監修



吉田裕彦氏


臨床内科専門医。消化器内視鏡専門医。漢方専門医。栄養指導医。大阪府内科医会理事。八尾市医師会副会長。医療法人朋侑(ほうゆう)会・吉田クリニック院長。


医療法人朋侑会・吉田クリニック:

大阪府八尾市山本高安町2-1-3

■病気をもたらすのは6つの「邪」。夏バテは「暑邪」「湿邪」

―「暑邪」、「湿邪」とは、あまり聞きなれない言葉ですが、どのような意味でしょうか。


吉田医師: 「風邪」は知らない人はいないと思いますが、「風」の「邪」と書きます。漢方では、「暑邪」、「湿邪」も同じ考えに基づいています。気候や環境の変化が体の外から影響を与えて病気が引き起こされる場合、その要因を病の邪気の意味合いで、「病邪」、と呼びます。


病邪には6つの「邪」があり、「寒邪」は寒さの邪気、「暑邪」は蒸し暑さの邪気、「湿邪」は湿度の邪気、「燥邪」は乾燥の邪気、「火邪」は熱さの邪気、「風邪」は風の邪気と考えます。


日本の夏は気温が高いだけでなく、湿度が高いことも体調に大きく影響を与えます。ですから、夏バテは、「暑邪」、「湿邪」によってもたらされる不調と言えます。


―漢字の並びからイメージができます。「暑邪」、「湿邪」による不調は、それぞれ異なるのでしょうか。


吉田医師: まず、「暑邪」では、暑さ、気温の高さが人の「気の巡り」であるエネルギーに影響して体力を消耗させます。それとともに、体に必要な水分が奪われ、だるさ、倦怠(けんたい)感、不眠、イライラなどの症状をまねきます。


ヒトの体は、自律神経の働きによって、気温が変化しても体温を一定に保とうとします。外気温が高くなると、体に熱がこもらないように熱を逃がそうとして、体内では多くのエネルギーが消耗されます。とくに、屋内の冷房環境が整っているところでは屋外との温度差が大きく生じるため、自律神経は体温調節のために強い負担を強いられます。それによって、エネルギーが不足して疲れやすく、また疲れが回復しにくくなります。


「湿邪」では、湿度の高い環境が「気」の流れを妨げるととらえます。「湿」は重いという性質をもっているため、全身のだるさ、頭や手足が重いといった症状が現われます。「湿邪」の影響をもっとも受けやすいのが、胃腸をはじめとした消化器官です。そして、食欲の低下、消化能力の低下によって、必要な栄養素が不足するなど、ほかの臓器への影響も出てきます。


このように、「暑邪」、「湿邪」に特徴はありますが、それぞれが影響し合って、夏バテの症状を複雑に厄介なものにするといえます。

■自律神経のバランスが乱れ、疲労と消化機能低下の悪循環へ

―それぞれが影響し合うと、体はどのようになるのでしょうか。


吉田医師: 無理な体温調節が長く続くと、自律神経へのストレスが大きくなり、体温のコントロールに支障が出てきます。自律神経のバランスが乱れて発熱や胃腸の不調が出るようになります。全身疲労や全身倦怠感が消化機能を低下させ、消化機能の低下が全身状態を悪化させる悪循環になることがあります。


―「暑邪」、「湿邪」にはどのように対策をすればよいでしょうか。


吉田医師: 「暑邪」、「湿邪」ともに、「冷え」を意識したほうがよいと言えます。冷房の使用、冷たい物を飲み食べして体が冷えることで、夏バテの症状を加速させることがあります。


熱中症の場合は体を急速に冷やす必要がありますが、夏バテ対策としては、体の内も外も極端に冷やさないことがポイントです。冷房の冷気が体にあたらないようにする、睡眠時は手足が冷えないように気をつける、水分を十分にとり、できるだけ温かい飲み物、食べ物をとる、入浴は湯船につかるなどの日常の習慣に注意をし、もとより栄養バランスがとれた食事、充実した睡眠を心がけて自律神経のバランスを回復しましょう。

■疲れや倦怠感、消化機能を改善する漢方薬がある

―「暑邪」「湿邪」が漢方の考え方だとすれば、それらを和らげる漢方薬もあるのでしょうか。


吉田医師: 疲れや倦怠感を改善し、弱まった消化機能を高める働き、水分の代謝を高める働きなどを助ける漢方薬があります。次に挙げておきましょう。

  • 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

    「補中」とは、衰えた胃を補い助ける、「益気」とは、低下した気力を持ち上げ元気を取り戻すといった意味です。普段から体力が弱くて疲れや倦怠感が強く、食欲があまりない人に、消化機能や体力を回復させるように働きかけます。

  • 六君子湯(りっくんしとう)

    薬に含まれる「人参」「半夏」「茯苓」「朮」「陳皮」「甘草」の6つの生薬を君子にたとえ、その名がついたとされます。体力があまりなくて、胃腸が弱い人、手足の冷えが気になる人、疲れやすい人などの食欲不振、胃もたれ、胃痛など胃腸の機能の改善が期待できます。

  • 五苓散(ごれいさん)

    体力のある人、ない人に関わらず、幅広く用いることができます。水分代謝(水分の滞り)に働きかけ、尿量の減少、めまい、むくみ、頭痛、下痢などの改善が期待できます。

―猛暑への心構えができました。ありがとうございました。



日本の夏の大敵は「暑邪」、「湿邪」ということで、どうして不調を連発するのかが理解できました。対策の基本は体を冷やさないことであり、また食事や入浴、睡眠を見直したうえで、漢方薬を試す方法があるとのことです。さっそく、夏バテに負けない暮らし方を検討したいものです。


(取材・文 ふくいみちこ・藤井 空 / ユンブル)