「森林浴」という言葉もずいぶん一般的になりました。自然の懐に抱かれた森林に出掛けてそこで過ごすと、日常の喧騒を忘れてリラックスできますよね。「森林セラピー」ともいわれますが、森林はいったい、カラダにどんな影響を与えるのでしょうか。


今回は、森林浴について『国立研究開発法人 森林研究・整備機構』の香川隆英農学博士にお話を伺いました。香川博士は森林セラピー研究の日本における第一人者です。

取材協力・監修


香川隆英農学博士


京都大学農学部修了後、農林水産省入省。国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林管理研究領域所属。農学博士。

森林セラピー研究を推進するため、日本全国60数箇所の森林セラピーロード医学実験などのため、国内外の森を駆け巡っている。


⇒『国立研究開発法人 森林研究・整備機構』公式サイト

https://www.ffpri.affrc.go.jp/

■「森林浴」は日本発の考え方です!

そもそも「森林浴」という言葉が日本で考え出されたものであることをご存じでしょうか?1982年に長野県上松町にある「赤沢自然休養林」で、林野庁の提唱した森林浴イベントが行われ、このときに初めて「森林浴」という言葉が使われたとされています。


ただし、当時は「森林を訪れるとリラックスできたり、癒やされた感じがする」という印象が優先で、人体に具体的にどのような影響があるかは計測されていませんでした。この後、2004年には「森林セラピー研究会」が産官学共同で発足し、「科学的な効果が証明された森林浴のことを森林セラピーと呼ぶ」と定義されました。


このように、森林浴という考え方、またその効果の実測まで、日本は世界に先駆けて行っています。香川博士の研究は効果の実測という点で世界を驚かせるものでした。研究結果が世界に発表されたおかげで、現在ではアメリカ、韓国、中国、ドイツ、フィンランドなど、海外でもその効果に注目するようになっています。


香川博士によれば「shinrin-yokuという日本語自体が世界に広まってきています」とのこと。なんだかうれしい話ですね。

■計測された森林セラピーの効果

香川博士に、森林セラピーの効果について伺いました。


――「森林セラピーは科学的な効果が証明された森林浴」とのことですが、人間にどのような効果があるのでしょうか?


香川博士 人間の健康を守るための恒常性維持機構には、「神経系」「内分泌系」「免疫系」があります。この3つの系それぞれで良い効果があることが分かっています。例を挙げてみますと、


  • 神経系

森林セラピーを行うと、副交感神経の活動が活発になります。副交感神経が活発ということは、落ち着いた、リラックスした精神状態になるということです。


  • 内分泌系

森林セラピーを行うと、ストレスホルモンと呼ばれる「コルチゾール」の分泌が有意に低下します。


  • 免疫系

森林セラピーを行うと、NK(ナチュラルキラー)細胞が有意に活性化されます。NK細胞の活性によって免疫機能が高まり、抗がん能も高まるのです。


ほかにも、


  • 血圧・脈拍

森林セラピーによって脈拍数や血圧が低くなり、よりリラックスした状態になることが分かっています。


  • 尿中アドレナリンの低下

アドレナリンは感情的興奮の下で分泌量が増加しますが、森林セラピーによってこの分泌が抑制されることが分かっています。


など、人間にどのような効果があるかが科学的に検証されています。海外でも、たとえば2011年にはフィンランドでヨーロッパ初の森林医学実験が行われたりしています。森林セラピーの効果は徐々に世界に認知されてきていると言えるでしょう。

■日本全国に広がる森林セラピー基地

「森林セラピーは本当に効果がある」ということで、現在日本各地に62カ所の森林セラピー基地・ロードが整備されています。特に注目すべきは、東京都奥多摩町に造られた世界初の「森林セラピー専用ロード:香りの道・登計トレイル」です。


ここは2010年に整備されましたが、森の香りを満喫できる(樹木が発散するフィトンチッドによる嗅覚刺激が、癒やし効果をもたらすことが証明されています)場所を設ける、森の中でヨガを体験できる「木漏れ日広場」など、森林セラピーの効果を最大限に生かす施設になっています。


また施設の展開だけではなく、森林セラピーを広く一般に理解してもらえるように「森林セラピスト・セラピーガイド」の資格も設けられているのです。

■森林でストレス解消、アンチエイジング!?

――女性読者におすすめの効果はありますか?


香川博士 そうですね、上で触れたとおり、森林セラピーには人間の健康に良い効果があることが分かっています。たとえば13名の女性看護師の皆さんに参加していただいた実験(ガイドについて2日間、森をゆっくり散策する)では、ストレスホルモンが劇的に下がるという結果が出ています。


また別の実験では、アンチエイジングホルモンが有意に増加するという結果も出ています。若さを保ちたいという女性は多いと思いますが、そういった皆さんにも、ぜひ森林セラピーを経験していただければと思います。


――ありがとうございました。



日本人にはどこかに「人間も自然の一部」という意識がありますよね。自然の中に出掛けると落ち着く、安らぐ⇒「そこには何か科学的な作用があるのでは?」という着眼点が、非常に日本人的なものではないでしょうか。だからこそ、「森林浴」という言葉を思いつけたのかもしれません。日本が最も森林セラピーについての研究が進んでいるというのも、大いにうなずける話ですね。


読者の皆さんも、森に癒やされに出掛けてみましょう。効果があることは証明されていますので!


(高橋モータース@dcp)