残暑と呼ぶ時期でも、猛暑日、真夏日、熱帯夜の日々に、食欲不振や食べても胃がもたれて重い、全身がだるい、夜眠れずに疲労が募るといったことはありませんか。
「体力をつけて暑さを乗り切るためにも、まずは食事から」と考え、鍼灸(しんきゅう)師で針灸院・陽田(大阪市北区)の陽田志保子院長に、胃の不調をケアするツボ押し法などを詳しく教えてもらいました。
■高温多湿の影響を受けやすい部位は胃腸
はじめに、暑さバテについて、陽田さんはこう話します。
「東洋医学では、夏の熱気や湿度で最もダメージを受けやすいのは『胃腸などの消化器官』ととらえます。
高温で湿度が高い日々が続くと、体温や脈拍、血圧、血流などを調整する自律神経に負荷がかかり、バランスが乱れます。また、冷たい飲食物も原因のひとつです。胃腸はこれらの影響を受けやすく、疲弊してその働きが低下します。
食欲がわかずに胃の不快感があると、疲れが取れない、体がだるい、やる気が起きないなどの悪循環に陥るでしょう。これが暑さバテの状態です。まずは胃腸の働きを活性化して、バテている状態を改善しましょう」
■ツボ周辺の変化を感じる箇所が「生きたツボ」
次に、「自分にとっての『生きたツボ』を見つけて指圧するのがポイントです」と話す陽田さんは、次のように説明を続けます。
「ツボの位置は、個人差があります。次に紹介する位置を参考に、ツボとその周辺をおや指とひとさし指でつまむように軽く持ち上げて指を動かす、また、筋肉の反応を探すようにおや指の腹で軽く押すように動かすなどして、違和感がある箇所を探してみてください。
『固くて凝っているよう』、『反応が鈍く感じる』、『少し冷えているなぁ』など感じ方はさまざまですが、その違和感がある箇所が、その人にとっての生きたツボです」
■胃腸の働きを高めて元気をアップするツボ&耳マッサージ
ここで陽田さんに、「暑さバテによる胃の不調を改善するツボケア」を具体的に教えてもらいましょう。
(1)ツボ「中脘(ちゅうかん)」を刺激する―消化吸収の力を高める
胃の不調に対する特効ツボとして知られています。「中」は「当たる、中央」を、「脘」は「胃」を表し、「中脘」とは「胃の中央部」を意味します。消化吸収の力を高めて、胃痛や消化不良、胃の不快感、胃もたれなどの変調に作用して、食欲がわくように働きかけます。
位置:おへそとみぞおちをまっすぐに結んだ線上の中間点。
刺激法:両方の手のなか指をそろえて、やや強めに約10秒、3~5回を刺激します。
(2)ツボ「足三里(あしさんり)」を刺激する―胃腸の機能を高める
ひざのお皿の下の外側にあるくぼみから、「三里」下がった部分に位置するツボです。胃腸の働きを促す副交感神経の働きを高めるとされ、食欲不振だけでなく、腹痛、下痢、おう吐など胃腸の不調などの改善に作用します。冷房による冷えも改善します。
位置:ひざのお皿のすぐ下のくぼみにひとさし指を置き、指4本をそろえたときに小指が当たる部分。左右にあります。
刺激法:おや指の腹で気持ち良いと感じる程度の力で5~10秒、3~5回刺激します。
(3)ツボ「天枢(てんすう)」を刺激する―スタミナをアップ
腸の働きを司るツボで、「天」は全身をおへそあたりで二分割にしたときの上半分を、「枢」は「要(かなめ)」を表します。体力や免疫力を保つために欠かせない食べたものの栄養素の消化吸収を行う小腸や、水分やミネラルを吸収する大腸の動きを活発にします。また、腸内にたまった不要なものを排出するように働きます。
位置:おへそから左右に指3本分ぐらい離れた場所。左右にあります。
刺激法:ひとさし指やなか指の腹で、気持ち良いと感じる程度の力で5~10秒、3~5回刺激します。
(4)耳をマッサージする
耳には、小さいながらも全身に関係するツボが点在しています。『胃』、『大腸』、『眼(め)』、『脾(ひ)』など部位の名前が付くツボもあります。これらをまとめて刺激するようにマッサージをしましょう。
手順1:耳全体を手で押さえて、後ろにつけるよう倒す、前へ閉じるよう倒します。
手順2:耳の上側と耳たぶをくっつけるように、指で耳全体を曲げます。
手順3:耳の上の方をおや指とひとさし指で挟み、耳たぶに向かってもみおろします。
手順4:1~3の動作を両方の耳とも、3~5回くり返します。血流が促されて、耳が柔らかくなるのを感じるでしょう。
さらに陽田さんは、ツボ押しを行うタイミングについて、次のアドバイスをします。
「これらのツボ刺激は、仕事中でもテレビを見ているときでもバスタイムでも、思い立ったときにいつでも実践してください。十分な睡眠や適度な水分補給を合わせて行うと、つらい暑さバテの改善に役立つでしょう」
朝、午後、寝る前のツボ押しを3日ほど継続したところ、胃がぐるぐると鳴ることがあり、動き始めたように感じました。同時に少しずつ食欲が戻り、味気なく感じていた食事もおいしく思うようになりました。どこででもすぐにできるので、暑さバテを乗り越えて前向きな気分を取り戻すためにも、試してみてはいかがでしょうか。
取材・文 岩田なつき/ユンブル