尿漏れ、尿失禁は、男女の区別なく見られますが、40代になると尿失禁が増えることが知られています。今回は、尿漏れ・尿失禁はなぜ起こるのかについて解説します。
記事監修
伊藤友梨香 先生
泌尿器科医。東海大学医学部卒業、東邦大学医療センター大森病院勤務、石心会川崎幸病院勤務。
女医+(じょいぷらす)所属。
■「尿漏れ」「尿失禁」って?
一般には「尿漏れ」などといわれますが、医学用語では「尿失禁」といいます。尿失禁は「尿の無意識あるいは不随意な漏れが衛生的または社会的に問題となったもの」と定義されています。
難しい言い回しですが、要は「尿が漏れて困る」と思ったら、それは「尿失禁」なのです。
■尿失禁は40代から急増する!
石河修博士(『大阪市立大学医学部附属病院』病院長)らの、1万9,293人の女性にアンケート調査を行った研究によると、尿失禁の有病率は26.8%となっています。
ですから、女性のだいたい4人に1人は尿失禁を経験していることになります。また同研究によれば、尿失禁は30代から40代になると急増することが分かっています(下図の引用元は記事末URL)。
■女性に多い尿失禁の種類
尿失禁の分類はいろいろあるのですが、女性の場合には主に以下のような尿失禁がほとんどです。
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腹圧性尿失禁
中年女性に多い尿失禁です。
せき・くしゃみをしたときや、重いものを持ち上げたときなど、おなかに力を入れることで尿漏れが起こります。
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切迫性尿失禁
高齢者に多い尿失禁です。
突然激しい尿意を感じ、トイレに行くまで我慢することができずに尿漏れが起こります。
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溢流(いつりゅう)性尿失禁
尿がぼうこうに充満し、ぼうこうから尿があふれて少しずつ漏れ出るという尿失禁です。
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混合性尿失禁
「腹圧性尿失禁」と「切迫性尿失禁」が混在する状態のことです。
上記で紹介した石河博士の研究によって
・50代以下の女性では腹圧性尿失禁が約半数を占める
・60代以上の女性では切迫性尿失禁の割合が増加する
ことが分かっています。アラフォーの女性は、せきやくしゃみなどで、おなかに力を入れたときに思わず尿が漏れてしまうというケースが多いのです。
■尿をためる・排せつする仕組み
尿をためること(蓄尿)と、尿を排せつすること(排尿)は、
・ぼうこうの壁にある「ぼうこう排尿筋」
・ぼうこうの出口の部分をぎゅっと締める「内尿道括約筋(ないにょうどうかつやくきん)」
・骨盤の底にあってぼうこうや子宮、直腸を支える「骨盤底筋群」
(尿道に関わるのは骨盤底筋群の中の「外尿道括約筋」)
という筋肉の働きによって行われます。蓄尿、排尿におけるそれぞれの筋肉の作用は次のようになります。
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蓄尿
ぼうこう排尿筋が緩んで、ぼうこうの容量を大きくする
内尿道括約筋が収縮して出口を締める
骨盤底筋群が収縮して尿道を締める
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排尿
ぼうこう排尿筋が収縮して、ぼうこうを絞る
内尿道括約筋が緩んで出口を開く
骨盤底筋群が緩んで尿道を開く
これらの蓄尿・排尿に関わる筋肉は、交感神経の「下腹神経」、副交感神経の「骨盤内臓神経」によってコントロールされています。下腹神経からの指令で尿をため、骨盤内臓神経からの指令で尿を排出します。
このような仕組みのため、何らかの原因でぼうこう排尿筋が収縮したり、括約筋・骨盤底筋群が緩んだりすると尿が漏れる場合があります。また、ぼうこうから尿が体外に排出されるときに通る「尿道」に問題がある場合にも尿が漏れることがあります。
さらに、蓄尿・排尿に関わる筋肉をコントロールしている神経系(「排尿中枢」といいます)に異常があった場合にも尿漏れが起こります。何らかの疾患(たとえば「動脈硬化」)が脳の排尿中枢に障害を与えることもあります。
■中高年女性の尿失禁の原因は?
アラフォー女性に腹圧性尿失禁が多いのは、出産による影響が大きいといわれています。出産によって骨盤底筋群が傷んで緩み、尿道を締める力が弱まるのです。また、骨盤内手術によって内尿道括約筋、骨盤底筋群が弱ることもあります。
そもそも年を取ると、ぼうこう排尿筋・括約筋・骨盤底筋群など、蓄尿・排尿に関わる筋肉の機能が低下します。つまり、年を取ること自体が尿失禁の原因になるのです。また、加齢によってぼうこう自体が硬くなり、尿を多くためるための柔軟性が失われてしまうことも影響します。
そして、忘れてはいけないのが「病気」の影響です。「糖尿病」でも尿失禁は起こりますし、たとえば高血圧の薬を服用することによっても尿失禁を起こす可能性があります。ですから尿失禁では、老化によるものなのか、疾患によるものなのか、あるいは服用している薬によるものなのかなど、医師の診察を受けて十分な検査を行い、原因を特定することが大切になるのです。
尿失禁を経験する女性は多いのですが、恥ずかしいという気持ちが先に立って医師の診察を敬遠する人も少なくありません。しかし、何らかの疾患によって尿失禁が起こっているケースも考えられます。放置せずに婦人科、泌尿器科など専門医を受診するようにしましょう。
⇒参考文献・図引用元:『日産婦誌61巻11号』「E.婦人科疾患の診断・治療・管理」「2)排尿障害」
(高橋モータース@dcp)