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洋服のにおいが気になる
汗のにおい、室内干しした洗濯物の生乾きのにおい、気になりますよね。でも、洗濯したもの自体、つまり衣類の素材そのものが「におわない」機能を持っていたとしたら……?
今回はにおいを防ぐ衣類「機能性素材」についてご説明します。
【「機能性素材」とは?】
衣類の素材に新たな機能が備わったもの。例えば快適性、イージーケア性(お手入れのしやすさ)、清潔性などの機能を持たせたものです。快適性素材は快適に過ごせるように季節に合わせて開発されていて、冬であれば「保温性素材」や「吸湿発熱素材」、夏は「吸汗速乾素材」などがあります。またイージーケア性素材には、洗濯してもしわになりにくく、アイロンがけのいらないノーアイロン、形態安定シャツなどがあります。
そして今回ご説明する「におい防止」に有効な素材は、清潔性と快適性を備えています。清潔性、快適性素材は主にインナーとして使われることが多いです。
衣類の素材である繊維には、綿、麻、毛などのように原料が自然のなかにある植物や動物である「天然繊維」と、ポリエステル、ナイロン、アクリルなどのように、石炭・石油などの原料から化学的に合成する「化学繊維」があります。機能的にする方法として、天然繊維は原料自体に本来備わっている性質を変えることが難しいので、糸や布にした後に処理剤を吸着させる「後加工(あとかこう)」という方法をとることが多いのです。
一方化学繊維は、後加工以外にも原料に機能性を発揮するような薬品を混ぜる、合成の途中で繊維の形を変えるなどの方法があります。化学繊維の方が天然繊維よりも多様な機能性素材を作りやすいといえるでしょう。また合成途中での処理は後処理に比べると丈夫な機能となるものが多く、洗濯などによってその効果がなくなる心配は少ないです。機能性素材にポリエステルやナイロンなどの合成繊維が多く使われるのはこのためです。
【抗菌防臭素材と消臭素材】
いずれもいやなにおいを防ぐ素材ですが、そのしくみが異なります。
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抗菌防臭素材
においが発生する元となる細菌の増殖を抑制します。においが発生するのは、皮膚常在菌が汗や皮脂・角質などの汚れを栄養源として急激に繁殖するためとされています。抗菌防臭素材は、これらの菌の繁殖を抑制する(抗菌)ことでにおいの発生を防ぐ(防臭)のです。
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消臭素材
においの元になる成分を取り除きます。細菌の増殖によって発生するにおいの原因物質(アンモニア、酢酸、イソ吉草酸、ノネナールなど)を吸着、中和、分解するような物質を繊維に付与することで消臭します。
【SEKマーク】
抗菌防臭、消臭素材には、その効果、耐久性、安全性に対して「繊維評価技術協議会」が設けた認証基準があります。これをクリアしたものにのみ「SEKマーク」が付けられます。つまり、SEKマークが付けられているものはその効果、耐久性、安全性が保障されているというわけです。SEKマークを確認してから購入してくださいね。
【消臭スプレー】
「消臭」というと、みなさんは「消臭スプレー」を思い浮かべるかもしれませんね。実際にお使いになっている方も多いと思います。
この場合の「消臭」は、お伝えしました機能性素材の「消臭」のように消臭方法や定義が明確ではありません。
しかし、多くの消臭スプレーは「除菌」による消臭を謳っています。静岡県が行った消臭スプレー10種の消臭効果の調査によると、「除菌・消臭スプレーに『消臭効果がある』と感じる消費者が多く、一定の効果がみられるが、においの原因となる菌全てを除菌できるわけではない」という結果が出たそうです。調査では車用消臭スプレーが用いられましたが、衣類用も基本的には大きく変わらないと思います。
また「除菌」については、台所用、住宅用洗剤には「除菌」と表示できる基準が決まっていますが、消臭スプレーについては、今のところ基準は定められていません。
除菌以外にも「マスキング」といって、「嫌なにおい」をほかの「いいにおい」で隠す方法もあります。消臭スプレーの使用に際しては、どんなにおいを消すのかなど、ご自分の目的に合ったものを選んだ方がいいでしょう。
【においがなくても汚れている…?】
においがしなくなると、「きれいになった=汚れがなくなった」と思うかもしれませんが、それは誤解です。消臭によってにおいがなくなることと、汚れがなくなることは全く別のこと。確かににおいの原因物質はなくなりますが、私たちの身体から出る皮脂や角質、空気中を漂うほこりなどは衣類についたままの状態です。これは消臭スプレーに限ったことではなく、機能性素材の場合も同じです。機能性素材を使うことによって、嫌なにおいを取り除き「快適性」を保つことはできますが、完全に汚れを取り除いて「清潔性」を保つためには洗濯が必要なのです。
【おわりに】
機能性素材や消臭剤はいずれも人間の知恵と技術によってもたらされた効果的なアイテムです。うまく利用しつつ、基本的なお洗濯も忘れずに行いましょう。
(Yukie Karube/テキスタイルアドバイザー)