不妊医療といえば、女性ばかりが注目され、精神的にも負担が大きいというイメージがないでしょうか?しかし、近年になって、日本でも男性不妊治療が一般的になってきました。


この「男性不妊治療」とはどんなものなのか、『リプロダクションクリニック』(大阪と東京があります)CEOの石川智基医師に取材しました。石川先生は生殖医療の第一人者であり、特に「男性不妊治療」に深い知識と経験をお持ちです。

取材協力・監修


石川智基 医師


2000年、神戸大学医学部医学科卒業。同大学院を経て、アメリカ留学。ロックフェラー大学(米ニューヨーク)、コーネル大学で学ぶ。2005年末帰国。神戸大学医学部附属病院で男性不妊治療に携わり、さまざまなクリニックにて男性不妊外来を担当。2009年、モナシュ大学(豪メルボルン)へ。micro-TESE(顕微鏡下精巣内精子採取術)の技術の向上に努め、帰国後は全国のクリニックで執刀を担当。2013年『リプロダクションクリニック大阪』開院、2017年『リプロダクションクリニック東京』開院。現・両院のCEO。


⇒『リプロダクションクリニック大阪』

http://www.reposaka.jp/


⇒『リプロダクションクリニック東京』

http://www.reptokyo.jp/

■そもそも「不妊」とはどんな状態?


まず「不妊とは何か」について知っておきましょう。


「公益社団法人 日本産科婦人科学会」では「不妊(症)の定義」を次のようにしています。

生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間、避妊することなく通常の性交を継続的に行っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない場合を不妊という。その一定期間については1年というのが一般的である。なお、妊娠のために医学的介入が必要な場合は期間を問わない。

難しい言い回しかもしれませんが、要は「生殖可能な男女が、1年間避妊せずに継続的にセックスしているにもかかわらず、妊娠しない場合は『不妊(症)』に当たる」というわけです。


以前は、定義にある「一定期間」というのが「2年」だったのですが、WHO(世界保健機関)やICMART(国際補助生殖技術監視委員会)などでは「1年」としていますし、また不妊治療を早く始めたほうが良い、という考えの基に日本でも「1年」と短くなったのです。


実際、不妊治療ではスピード感を持って進めるのが大事といわれています(後述)。

⇒データ出典:『公益社団法人 日本産科婦人科学会』の「不妊(症)の定義の変更について」

http://www.jsog.or.jp/news/html/announce_20150902.html

■男性に不妊の原因がある確率は「3/7」


不妊治療においては、まず不妊の原因を特定しなければなりません。そのために、男性・女性それぞれの生殖能力についての検査が行われます。これまで日本では女性が不妊治療の主体となることが多かったのですが、前述のとおり子供は男女が力を合わせてつくるもの。男性に原因があることも少なくありません。


石川先生に、男女のどちらに不妊の原因があることが多いのかを伺ったところ、


男性3:女性4


とのことでした。ですから不妊とひと口に言っても「3/7 = 約43%」は男性に不妊の原因があるわけです。この比率を見るだけでも、女性ばかりが不妊治療に臨むのはおかしいことが分かります。


注意していただきたいのは「不妊治療は犯人捜しではない」という点です。不妊治療はふたりの間に子供が授かるために行うのであって、お互いを傷つけたり、非難するために行うのではありません。お互いをいたわり合い、愛情の結晶としての子供を授かるために行うものなのです。

■男性への診察で分かること


「男性不妊治療」ですので、やはり男性の「精子」について「数が足りない」「動きが活発でない」ことが着目されます。男性への検査で分かる「不妊の原因」としては下のようなものが挙げられます。


●乏精子症

精液検査で精子の数が1ml中に1,500万個を下回る場合には、この乏精子症と診断されます(精子の運動率や直進率などを総合的に見て診断)。精巣からの静脈の血流が滞る精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)のほか、精巣の働きが悪く、精子がつくられにくい造精機能障害などが原因となります。ただし、原因不明の症例も多数あります。


●無精子症

射精した精液中に精子が確認できない状態。この無精子症には次のふたつがあります。


⇒非閉塞性無精子症

精子が全くつくられていない、またはほとんどつくられていない。


⇒閉塞性無精子症

精子がつくられていてもその通り道がふさがっている。


●精子無力症

精液検査で前進する精子の割合が40%未満の場合、この「精子無力症」と診断されます。先天的な異常、前立腺や精巣の炎症など、何らかの理由で精子をつくる機能が低下していると考えられます。乏精子症と併発しているケースがほとんどです。



たとえば、上記のうち精索静脈瘤による「乏精子症」の場合には、静脈瘤を治療する手術を行うことで状況が改善することが期待できます。石川先生によれば「精索静脈瘤の手術を行った症例のうち、約7割の患者さんで、精液所見が1.5倍以上にアップしたという統計結果があります」とのこと。また「高温にさらされていた精巣の環境が改善することによって、精子DNA損傷が減り、奇形率が下がるというメリットもある」そうです。


射出精液中に精子が認められない「無精子症」、特に通り道が原因でない「非閉塞性無精子症」でも、それに対応できるよう「マイクロTESE」という手術が開発されています。これは、精巣内に精子がありそうな場所を手術用顕微鏡を用いて探し、精子を採取する技術です。


石川先生によれば、この顕微鏡下での精子採取、またそこからの顕微受精の治療についてはスピードが大事なのだそう。緊密な連携をとるには、女性不妊外来と男性不妊外来が離れていてはそもそも実行が困難です。石川先生がCEOを務める『リプロダクションクリニック』で男女の外来が併設されているのは、スピード感を持って不妊治療を行うためでもあるのだとか。

■不妊治療を考える女性にアドバイス


――不妊治療を受けようと考えている女性にアドバイスをお願いいたします。


石川先生 とにかくスピード感をもって、パートナーの男性と「ふたりで受診する」ことです。一緒に治療をしたほうが明らかに早く治療が進みます。


気を付けていただきたいのは「犯人捜しをすることではない」ということです。どちらが悪いとか、そういうことを話すのではありません。不妊治療の目的は「妊娠して健康なお子さんを授かること」ですね。それに向けてふたりで一緒に来てほしい、と思います。そうすることによって、女性の精神的な安寧も図れます。


――スピード感が不妊治療のキーワードということですが?


石川先生 女性の体には「年齢」があって、妊娠適齢期がありますし、この年齢になったらなかなか子供を持てませんよ、という年齢があります。それを十分考えた上で、ライフプランを立てないといけません。子供を産むというのは女性にしかできないことですが、それができる時間は、ある意味限られているわけです。ですから、自分のライフプランを立てて、本当に子供がほしいのでしたら、早く対応していく必要があるでしょう。


とにかく、せっかく結婚して一緒にやっていくふたりなわけですから、奥さんだけがしんどい思いをしたりとか、そういうことのないように、夫婦そろって前へ進んでいく。それが大事なことではないでしょうか。


――ありがとうございました。



不妊治療は女性に負担が偏りがち、というイメージがあるのではないでしょうか?しかし実際には不妊の原因は男女ほぼ半々なわけです。ですから、石川先生の言葉どおり「不妊治療は夫婦そろって行うこと」が大事なのですね。これから不妊治療を受けようと考えている皆さんは、ぜひ「ふたりで」受診するようにしてください。


(高橋モータース@dcp)