やけどやけがをした際、皆さんはどんな処置をしていますか? 多くの場合、まずは患部を消毒してばんそうこうを貼ったり、患部をガーゼで直接覆ったりしているでしょう。実は、そうしたおなじみの処置以外に、「湿潤療法」と呼ばれる、痛みがなく、早期に治癒できる方法があるのです。今回は、この湿潤療法という言葉を造り、湿潤療法の普及に尽力されている医師の夏井睦(なつい まこと)氏にお話をうかがいました。

取材協力・監修


夏井睦 医師


1984年東北大学医学部卒業。2001年10月1日インターネット・サイト「新しい創傷治療」を開設。特定医療法人慈泉会相澤病院、石岡第一病院、練馬光が丘病院の傷の治療センターを経て、2017年10月から「なつい 傷とやけどのクリニック」を開院。著書に『これからの創傷治療』(医学書院、2003年7月)、『創傷治療の常識非常識―〈消毒とガーゼ〉撲滅宣言』(三輪書店、2003年12月)、『さらば消毒とガーゼ 「うるおい治療」が傷を治す』(春秋社、2005年12月)など。


⇒「新しい創傷治療」

http://www.wound-treatment.jp/

■湿潤療法とは?

創傷ややけどを治療する場合は、患部を消毒液で消毒して、清潔なガーゼで患部を覆うといった処置が行われることがほとんどです。しかし湿潤療法ではそれらを用いません。患部を水洗いした後に空気を通さない素材で覆って浸出液で満たし、患部を乾かないようにするだけです。患部が乾かないようにして潤いを保つ治療法のため、「潤い療法」とも呼ばれています。


夏井医師によれば、「湿潤治療の原理は1960年代初めに提唱されましたが、具体的な治療には応用されませんでした。また、創面を湿潤に保つという治療材料はあったものの『褥瘡(じょくそう)治療専用の治療材料』と考えられており、けがややけどの治療に使った例は世界中で一例も報告されていません」とのこと。


しかし、2001年ごろから医師の夏井医師によって普及が進められ、現在は夏井医師の考えに賛同する多くのクリニック、また医師が導入しています。


※褥瘡とは……寝たきりなど長時間同じ体勢になることで、体重で圧迫された部分の血行不全が起こり、その部分に傷ができたり、ただれたりするもの。一般的に「床ずれ」と呼ばれています。

■湿潤療法で傷が治る仕組みは?

夏井医師になぜこの治療法を推奨するのか聞いてみたところ、一番の理由は「痛くなく、傷も早く治るため」とのこと。けがややけどを負うと患部が痛みますが、その主な原因は「乾燥」です。空気に触れること乾燥し、患部が痛むのです。ですので、患部を覆って空気に触れないようにすれば乾燥せず、痛みもほとんど感じなくなる、ということなのです。


患部を覆って空気に触れなくすることで、「創面(そうめん:けがなどをした皮膚の表面部分)が乾かないようにする。」こともできます。創面が乾くことで傷の治りが遅くなるのです。このように、患部が空気に触れることで良いことはひとつもありません。そのため、空気を通すガーゼで患部を直接覆うべきではない、というのです。


また、「ガーゼは乾燥すると創面にくっついてしまい、剥がす際に出血して傷が深くなります。つまり、ガーゼは『治療材料』でなく『破壊材料』です。だからガーゼは使っていけません」と夏井医師は指摘します。


けがをした際、まずは患部を消毒液で消毒しますが、夏井医師によるとこれも絶対やめるべきとのこと。実は消毒液の成分で患部がさらに傷ついたり、傷を治す細胞まで破壊されてしまうのです。夏井医師がガーゼと消毒液を用いた処置はやめるべき、と提唱しているのは、こうした理由があるからです。

■湿潤療法はどうすればいいの?

夏井医師によると、湿潤療法の基本は、

  • 水道水で患部を洗う(このとき、せっけんなどは用いない)

  • 患部の水気をしっかりと取り、血が止まるまで押さえる

  • ラップや市販の湿潤療法用ばんそうこうで患部を覆う

  • 1日1回(夏季は1日2-3回)交換する

という流れになります。擦(す)り傷の場合は上記の流れで処置をします。切り傷の場合は傷口を水で洗ってから患部を押さえて止血し、傷口を閉じるように寄せてテープで留めます。やけどの場合も、すぐに患部を流水で冷やしてから、ラップなどで患部を覆います。もし、切り傷が大きくまた複雑な場合や、やけどの水疱(すいほう)が大きな場合は自分で処置をせずに病院へ行くようにしましょう。


毎日のお手入れで注意することは、消毒しない、患部を乾かさないということだけ。お風呂やシャワーはOKです。


湿潤療法で必要になるのは食品用ラップとワセリン、または市販の創傷被覆材(傷口を覆って治癒力を高めるというばんそうこう)です。患部を保護するための包帯やガーゼ(患部に直接使わない)もあるといいでしょう。これだけで早く、また痛みをあまり感じずにけがややけどを治すことができるのです。取材時に症例の写真を見せてもらいましたが、かなりひどいやけどでも、2週間ほどですっかりキレイになっていました。



湿潤療法は消毒をしない、ガーゼで患部を直接覆わないという治療法ですから、それに慣れている人は抵抗があるかもしれません。ただ、痛みをできるだけ感じない処置がいい、早く治したいという人は、ぜひ夏井医師のサイトも参考にして、取り入れるといいかもしれません。


(中田ボンベ@dcp)