検索
恋人への異常な嫉妬心… 「オセロ症候群」って知ってる?

2017.10.15

恋人への異常な嫉妬心… 「オセロ症候群」って知ってる?


「オセロ症候群」という言葉を知っていますか。一部のテレビ番組から話題になった心の病の一種で、恋人がほかの人に取られてしまうという恐怖から、強い嫉妬心を抱いてしまう状態と言われています。


相手を思うあまり抱いてしまう嫉妬心。症状を聞くと、自分にも当てはまるのではないかと不安になってしまいます。そんな「オセロ症候群」について、東京メンタルヘルスの所長 武藤清栄さんに教えてもらいました。

取材協力・監修



武藤清栄 先生


国立公衆衛生院生教育学科卒業。心とからだの相談センター主任カウンセラー、サンシャイン医学教育研究カウンセラー、医療法人梨香会秋元病院精神科心理療法担当を経て、東京メンタルヘルス・アカデミーを設立。これまでのカウンセリングは4,000回以上、メンタルヘルスなどの研修は5,000回以上の実績をもつ。

著書に「雑談力」(明日香出版)、「マンガでやさしくわかるメンタルヘルス」(日本能率協会マネジメントセンター)、ほか多数。


http://mentalhealth.jp/

■オセロ症候群=妄想性パーソナリティ障害のひとつ

――そもそも心の病とはどういうものなのでしょうか。


武藤さん

精神医学で定義されている心の働きは、感情、思考、記憶、意欲、意識、自我意識、知覚、知能の8つです。たとえば毎日悲しんでいると、涙に暮れる日々の記憶しか残らず、「このまま悲しみが続くのではないか」と思考が悲観的になります。これが、心が不健康な状態、心の病や精神障害と言われるものです。この状態が続くと、社会生活を営むことが難しくなってしまうため、心を少しでも健康にしようと働きかけるのが精神医療やカウンセリングです。


――強い嫉妬心から恋人への態度を変えてしまう「オセロ症候群」も、精神障害のひとつなのでしょうか。


武藤さん

「オセロ症候群」は、言葉自体はメディアが作った俗称です。シェイクスピアの作品「オセロ」に登場する、嫉妬に狂って妻を殺した主人公の名からとられています。


精神医学においては「妄想性パーソナリティ障害」のひとつに似た症状がありますので、今回はそちらに基づいてお話をしたいと思います。というのも、心の働きは複雑で、柔軟に対応するためにも診断名をつけないことが多くあるのです。


一般的に妄想性パーソナリティ障害は「ネガティブな投影的同一視」と定義されます。投影とは自分の想像を相手に当てはめること、同一視は決めつけることです。いわば、恣意的解釈です。恋愛のケースに置き換えると、恋人から連絡がなかった事実に「彼は浮気しているのはでないか」とネガティブな妄想を投影し、「絶対そうだ! だから私に連絡がないんだ」と決めつけます。


このように感情や思考に偏りがあると、それらのアウトプットである行動も極端になります。たとえば相手につながるまで連絡を入れ続けたり、デートがない日に相手の行動を確かめようとストーキングをしたり……。人間には独占欲があるから、嫉妬するのは当然のこと。精神障害とのボーダーラインは、相手や周りの人に支障を与えるかどうかです。


――相手のどのような行動に、ネガティブな反応をとるケースが多いのでしょうか。


武藤さん

私たちは日常生活の中で、対面での会話、メール、手紙など、多くのメッセージを他人から受け取ります。たとえば子どもがあなたの似顔絵を描いたことを話してくれたら、あなたはどのように答えますか。


この何気ないコミュニケーションの中には「絵を描いた」という事実を告げる報告と、「褒めてほしい」という相手に反応を期待する司令が含まれています。メッセージは常にふたつの側面を持ちますが、後者は明確に言葉に表れないため、読解は受け取り手の想像力に依存します。


妄想性パーソナリティ障害は、この司令をネガティブに捉えてしまう傾向にあります。オセロ症候群は恋愛の中で起こることを限定していますが、ネガティブな妄想は友人、家族などほかの関係性に対しても起こりうるものです。

■恋愛こそ人生最大の幸せ! と考える人は要注意?

――オセロ症候群では、なぜそのような被害妄想を抱いてしまうのでしょうか?


武藤さん

この状態に陥ってしまうのは、過去に裏切られた体験や記憶をもつ人が多いようです。昔、恋人や友人、家族など親しい人に嘘をつかれた体験があり、同じことが起こるのではないかと恐怖を抱いてしまい、不信感を持ちます。注意してほしいのは、その記憶が実際に起こったか否かは問題でなく、その人が感じたものがそのまま記憶として残っていることです。


人は幸福感を覚えるとき、脳の報酬系と言われる線条体が震えて快感を生み出します。その要因はいくつかあります。たとえば金銭的報酬をもらったとき、いい恋愛をしたとき、おいしい食事をしたとき、感動的なシーンや景色を見たとき、好きな曲を聴いたときなどが当てはまります。


恋愛においてネガティブな想像をしがちな人は、恋愛とその線条体が強く結びついている可能性があります。恋愛で満たされないと幸せを感じることができないため、より恋愛にのめり込み、相手の行動の細かな点に気付いてしまい、ネガティブな妄想を抱くという悪循環に陥るのです。なかでも一途な人ほど、自分が尽くしたのに相手から見返りがないことに対して、理由をつけるために妄想してしまうことが多いようです。

■妄想性パーソナリティ障害について相談するならどこがいい?

――カウンセリングではどのような対応をしているのでしょうか。


武藤さん

妄想性パーソナリティ障害に陥ってしまう人は、過去に自分の本音を他人に受け止めてもらえなかったと感じている人が多いようです。そのため「また傷付けられるかもしれない」と怯え、相手の言葉や行動に敏感になっています。


不安と闘い、生きづらさを感じている彼らに、「みんなもそうだよ」といった励ましや同情は酷です。カウンセリングでは、自分の立場から相手を考える他人事的な同情をするのではなく、「あなたの気持ちは伝わってくるよ」と、「(共感的)理解」をして相手の立場に立って考え、感じるように努めます。


理解されると、その人は自分の存在を是認されたと感じ、理解してくれた相手を信頼し始めます。相手を受け入れることができると、やがて客観的な視点を手に入れられるため、しがみついていた妄想から離れることができるのです。


――自分が妄想性パーソナリティ障害かも……と思ったときは、どこに相談すればいいのでしょうか?


武藤さん

精神科・神経科などの医療機関、またはカウンセリングルームなどがありますが、互いに紹介し合うこともあるので、どちらに訪れても問題ありません。一般的に薬物療法が必要な場合は医療機関で対応していますが、考え方や生き方に悩んでいる人は自分の気持ちを整理する上でも、対面で話し合うカウンセリングのほうがいいでしょう。



今回の取材で「オセロ症候群」改め、「妄想性パーソナリティ障害」について教えてもらいましたが、そこには自分の恋愛を省みるためのヒントが隠れているように感じました。メッセージの受け取り方、自分が幸せになるための考え方、そして人に対する同情と理解の違いなどなど。


恋人ができると、毎日声が聞きたいし会いたくなるのは当然のこと! でもどうやら強すぎる想いは諸刃の剣のようです。不安やネガティブな感情が出てきたなと思ったら、まずは深呼吸を。「相手のために!」と言いながら、自分の想いを押しつけていませんか。向こうの立場になって自分の行動を振り返ってみると、また違った考えや行動ができるかもしれませんよ。


(取材・文:小林有希 編集:ノオト)