冬になると、気分が落ち込む、やる気がなくなるといった経験はありませんか。「冬の期間だけうつの傾向が強まり、春になると自然と回復する『冬季うつ』と呼ぶ症状があります。20~30代の女性に多く見られます」と話すのは、心身医学専門医で心療内科医・野崎クリニック(大阪府豊中市)の野崎京子院長。冬の憂うつな気分の原因と対策について、詳しく聞いてみました。

取材協力・監修

野崎京子氏


心身医学・ペインクリニック・麻酔科専門医。京都大学医学部卒。国立京都病院、大阪赤十字病院、住友病院などを経て、現在、心療内科・ペインクリニックの野崎クリニック院長。著書に『心療内科女医が教える 人に言えない不安やストレスと向き合う方法』(マガジンハウス)。


野崎クリニック:大阪府豊中市新千里南町2-6-12

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■日照時間が減って、脳の活動が低下する

――冬にうつの傾向が強まるとのことですが、それはどうしてでしょうか。


野崎医師 まず注意をしていただきたいのは、「ウツウツした気分」と「うつ病」は別の状態だということです。憂うつな気分は、うつ病ではなくても誰にでも起こります。そこを混同しないようにしましょう。


病気としての「冬季うつ」の主な原因は、日照時間が少なくなるからだということがわかっています。


目から入った日光が網膜(もうまく)を刺激すると、脳に信号が送られて『セロトニン』という神経伝達物質の働きが活発になります。セロトニンは精神状態を安定させ、睡眠や体温調節にも関係するので、これの不足はうつ病の原因になるとされています。


また、眠りにつくように誘導する『メラトニン』というホルモンも関係しています。メラトニンは朝日を浴びると分泌が抑えられて、目覚めから約14~16時間後に再び分泌されます。覚醒と睡眠を切り替えて体内時計を正常に保つように働きます。


冬は日光を浴びる時間が減るため、セロトニンもメラトニンもその機能が低下します。これが冬季うつの原因になります。北欧の国やアラスカでは、冬季うつの発症率は10%を超えているという研究結果もあります。

               

――日光を浴びる量の問題ということですね。具体的には、どのような症状が現れるのでしょうか。


野崎医師 次の7つについて、「2週間以上続いているか」を自問してください。


(1) ほぼ毎日、食欲が異様にある。特に甘いものが食べたくなる。もしくは、食欲がひどく減退する

(2) ほぼ毎日、睡眠時間が10時間以上と、長くなる 

(3) ほぼ一日中、毎日、気分が落ち込む

(4) ほぼ一日中、毎日、やる気が出ない

(5) これまで楽しんでいたことが楽しめない

(6) ほぼ毎日、集中力がひどく低下して仕事にならない

(7) ほぼ毎日、疲労感が強い

                 

(3)~(7)は一般的なうつ病の症状と同様ですが、特に、(1)の過食や拒食と(2)の過眠は、「冬季うつ」に顕著な特徴です。思いあたる原因やストレスがないのに、晩秋のころから冬にかけてこのような症状がある場合は、冬季うつの可能性があります。生活習慣を見直しても改善しないときは、早めに心療内科か精神科を受診してください。


――これらのチェック項目のうち、「ほぼ毎日」ではない場合は、冬季うつという病気ではないのでしょうか。


野崎医師 症状が「一時的なのか」、「継続するのか」が病気かどうかを判断するポイントになります。例えば、風邪をひいたときにせきが終日、2週間以上続く場合は肺炎を疑って病院を受診するでしょう。日々の気分に関しても、同じように考えてください。うつの症状が続いて日常生活に差し支えるようでしたら、「病気かも」と考えましょう。


――こう毎日、連日ではなくても、「冬は気分が落ち込みやすい」と思います。病気ではなくても、やはり日照時間が関係しているのでしょうか。


野崎医師 そうだと考えられます。植物も動物も、冬は生命活動が低下します。寒い、晴れない日が続くと、気分がすぐれないのは自然なことでしょう。病気でない場合は、憂うつなときでも、「冬はこういうものだ、自然だ」と考えて、このあと紹介することを意識してみてください。

■午前中に日光を20分以上浴びる

――日常生活で、予防や、症状を改善する方法はありますか。


野崎医師 精神の安定や改善には、体内時計が規則正しく作用して、適切な睡眠と栄養のバランスが整った食生活を心がけることが重要です。


具体的には、『毎日同じ時間に起きて、午前中に20分以上日光を浴びる』ようにしてください。ただし紫外線は体に有害なので、冬でも対策を忘れないようにしましょう。


また、曇っていても日光はそそいでいます。部屋でストレッチをしながらガラス越しに日光にあたるなどだと、気分も良いでしょう。つらくて起きられない場合は、部屋の照明を最大明るくして1時間以上、光を浴びてください。


日光にあたる時間が長くなるほど、症状が改善される傾向にあります。日当たりの良い部屋のカーテンを開けて寝る、朝食後にウォーキングに出かけるなど、積極的に日光を浴びるようにしましょう。


――病院を受診した場合は、どのような治療をするのでしょうか。


野崎医師 人工的に強い光が出る照明器具の前に座り、毎朝1~2時間光を浴びる治療法や、症状に応じて薬を処方することもあります。冬になると部屋に閉じこもっていた若い人が改善した例も多くあります。



冬場は日照時間が減少するために、ウツウツしやすいのは自然なこと、ただしそれが終日、連日続くのなら病気の可能性が高いということです。また、起床のリズムを整えて午前中に日光にあたる時間を増やすことが、憂うつな気分の予防の一歩であるようです。寒い冬だからこそ心がけたいものです。



(取材・文 阪川夕輝/ユンブル)

↑野崎京子医師の著書『心療内科女医が教える 人に言えない不安やストレスと向き合う方法』(マガジンハウス)