生理前にやってくる、体や心の不調……。悩まされている女性は多いものの、何か対策を行っているという人は少ないのではないでしょうか。こうした「PMS」に悩む患者さんを多く診察・治療し、改善に導いているのが銀座の研医会診療所 漢方科の岡田研吉先生。


前回は「PMSとはなんなのか」をうかがいましたが、今回はPMSに効果的な治療手段について、漢方(東洋医学)のお話も交えながらご解説いただきました。

取材協力・監修


岡田研吉 医師


公益財団法人 研医会診療所 漢方科。1972年、東邦大学医学部卒業。ドイツ・リューベック医科大学留学中に東洋医学を志す。帰国後、名古屋聖霊病院・藤枝市立病院に勤務する傍ら、国立東静病院で漢方療法を学ぶ。1982年に北京中医学院(現・北京中医薬大学)に1年間留学。東京・玉川学園で岡田医院を開業。著書に『素問次注集疏(上・下)』『傷寒論考注(上・下)』『宋以前傷寒論考』ほか。

■漢方治療のメリット

さて、前回、岡田先生におうかがいしたPMSの大きな特徴、

  • 症状が広範にわたっている

  • 明確な原因がわかってない

  • メンタル系など不定愁訴が多い

⇒前回の記事

などの点を考慮すると、「漢方治療」を選択するのもひとつの手です。その理由を岡田先生に聞いてみたところ、次のように話されました。


「理由ですが、私どもが治療のメインとしている『東洋医学』と、世間一般的には主流となっている治療法『西洋医学』の、それぞれの特徴とメリット・デメリットから考えていくと、わかりやすいと思います。


まずは西洋医学ですが、その特徴として、熱に解熱薬、鼻水に鼻炎薬、胃もたれには胃薬など、一般的な市販薬を見てもわかるとおり、『病気という結果(部分)』を診る対症療法になります。痛み止め(消炎鎮痛剤)などでは即効性、止痛効果ともに優れたものもありますが、あくまでも見えている症状を抑えるのみで、その根本的な原因を解決するものではありません。


一方、東洋医学は、『病気ではなく、人間丸ごと全部』を診ることで心身に起こっている不調の根本的な原因を探し、治療します。


ただ、これって、なにも特殊なことを言っているわけではなく、ごくごく当たり前のことですよね。『人間は、丸ごと全部がひとつになっているからこそ生きていられる』わけですから」


確かに、私たちの体は単なる独立したパーツの寄せ集めではありません。心臓、皮膚、脳、胃、眼球ほかさまざまな臓器や器官は、血管、神経、筋肉などのネットワークを介して、規則性をもって関連し合っています。


たとえば、胃が痛いとき、胃だけを医者に渡して診てもらうなんてことはできませんよね。しかし、現代の医療では、「胃しか見ない」「胃以外はおいてけぼり」になっていることも往々にして見受けられます。

■PMSの漢方治療の方法

「人間丸ごとを診ることで得られるさまざまな心身データから、患者さんの『証(※1)』を見極め、最適な治療を進める東洋医学の場合、偏った心身バランスを整え、修正することで、個別のさまざまな症状が同時に治ることが少なくありません。こうした異なる症状に対して同じ治療が効果をもつケースを、東洋医学では『異病同治』と呼びます。まさに症状(病気)単体を見ず、人間をトータルに、要するに本質を診ることでなしうる治療スタイルといえます。


また、PMSの症状に多いメンタル系の『不定愁訴(※2)』は、西洋医学ではつらいけど病気とは診断されない状態止まりになりがちですが、心やメンタルと肉体の関連性を重視する東洋医学では立派な治療対象になります。


これも当たり前というか、心と身体も切り離すことのできない、密接な関連があります。実際、日常のなかで誰もが経験しているのではないでしょうか。たとえば、『仕事でミスして、胃が痛い……』『彼氏と仲直りして、風邪気味だけど元気元気♪』とか。


こうした気分的なものに加え、大学や研究機関での実験などから、感情・情緒が肉体に影響を及ぼすことが、徐々に解明されつつあります」

※1 証(しょう)

証というのは、個人の体質、体格から性格や嗜好ほかさまざまな要素を考慮して決定される「心身バランスの乱れ方のタイプ」をいいます。一番いいのは「心身に過不足なく必要なものが足りている状態」で、これがいわゆる「健康」な状態になります。

一例としては、余分なものがある状態を「実証(じっしょう)」、逆に、足りないものがある状態を「虚証(きょしょう)」といいます(このほかにもいろいろな、細かい分類があります)。


※2 不定愁訴(ふていしゅうそ)

はっきりした原因がわからず、明確に病気と診断できない心身の不調のこと。ストレスや更年期のホルモンバランスの乱れなどが原因で起きることが多い。

■PMS治療にピルを使うデメリット

さて、これまでに数多くのPMSにかかわる患者さんを診察してきた岡田先生ですが、治療におけるピルの使用には否定的な見解です。


「PMSが起きている心身は、基本的に余分なものがある状態、要するに『実証』と考えられます。これはPMSの各種症状から見ても、また、生理が始まって体内の余分な血液や水分が排出されると症状がなくなることからも理に適っています。


また、ここで重要なのは、普段の証が虚証の方であっても、症状が出ている月経前の一時期は実証になっているということです。


つまり、PMSとは、月経前に生じる『瘀血(おけつ)(※3)』や『痰湿(たんしつ)(※4)』といった『実証の心身状態が引き起こすさまざまな症状』となるわけですね。


となると、個人差はあれ、成分の点から基本的にむくみ(余分な水分の滞留)などを起こしてしまうピルの服用は、PMSの治療に適さない面が大きいと考えます」


実際に、ほかのクリニックでピルを用いた治療の副作用に悩んでいた患者さんが、岡田先生の治療で軽快しているケースも見られます。


一番大切なのは、患者さんの症状であり、その患者さんに合った治療法を選ぶことです。


ピルについては、低用量など副作用軽減を狙ったタイプの製品もありますが、どのようなタイプであれピルとしての作用があれば、むくみ、肥満などの副作用は程度の差はあるものの基本現れますからね」

※3 瘀血(おけつ)

不要な、余分な古い血液そのもの、もしくはそれにより血液の流れが滞っている状態を意味します。


※4 痰湿(たんしつ)

不要な水分を意味します。

■PMSの4つのタイプ。あなたはどれ?

漢方(東洋医学)についてのお話とともに、PMSについての説明を行ってまいりましたが、いよいよ、具体的な漢方治療についてのお話になります。


岡田先生は、これまでに診察した数多くの患者さんの症例から、PMSの患者さんを大まかに3つのタイプに分類しています。


「大きく分けると、

  • 1)「興奮・イライラ」タイプ

  • 2)「パニック・逃避」タイプ

  • 3)「落ち込み・クヨクヨ」タイプ

の3つになりますね。診察では、それぞれについてさらに細かく対応は変えていきますが、治療方針の基本はこの3つです」


では次回は、3タイプそれぞれの詳細なタイプの説明、治療の方法、改善に向けたおすすめのライフスタイルなどをご紹介します!


(取材・文 岩井浩)