「感染性胃腸炎」という疾患をご存じでしょうか。これは秋から冬にかけて患者が増えていく疾患で、場合によっては死に至ることもある怖い病気です。今回は、この感染性胃腸炎がどういう病気なのか、またその症状や予防法をご紹介します。

記事監修



岡村信良医師


医療法人小田原博信会 理事長、医学博士-健康検定協会-

■感染性胃腸炎とは?

感染性胃腸炎とは、細菌、ウイルス、寄生虫などの感染により発症した胃腸炎の総称です。汚染された食べ物や飲料水を飲食することで感染することが多いのですが、ペットやヒトなどからも感染します。特に、食品、飲料水によって感染した場合は「食中毒」といいます。


感染源として知られているのは、以下のようなものです。まず、細菌ではサルモネラ、カンピロバクター、腸炎ビブリオ、病原性大腸菌(O157、O111など)、黄色ブドウ球菌、ウイルスではロタウイルスや近年猛威を振るっているノロウイルス、そして寄生虫ではアニサキスなどです。


細菌とウイルスの違いですが、細菌は単細胞の微生物で、自己複製能力を持っています。一方のウイルスは、より単純な構造の微生物で、ほかの細胞を宿主にしなければ単体では増殖できません。大きさで比較すると、ウイルスは細菌よりもはるかに小さいのです。

●感染性胃腸炎の感染経路

感染性胃腸炎に感染する原因の多くは、先述のとおり汚染された食品・飲料水を媒介にして口から病原体が侵入するというケースです。そして食品の汚染は、生肉や魚介類を調理した包丁やまな板の洗浄・消毒が十分ではなく、その後に調理した生野菜などが汚染されたり、生肉をつかんだ箸やトングで、調理済みの食品をつかむということで起こります。



黄色ブドウ球菌は、おにぎりや手巻きずし、サンドイッチなど、加熱調理後に手で食品を触ったときに感染することがあります。この細菌自体は熱に弱いのですが、細菌が作った毒素は過熱しても消えずに残ります。このため、食べる前に加熱調理などをしても、黄色ブドウ球菌による食中毒を防ぐことができないのです。


近年多数の感染者を出しているノロウイルスは、食品以外からも感染します。このウイルスに感染すると下痢や嘔吐(おうと)といった症状が出るのですが、患者が排出した汚物を処理した後の処置が不十分だった場合、残っていたウイルスを口から取り込んで感染することがあります。さらに、汚物の処理が不十分だった場合には、残存したウイルスを含む粒子が空気中に舞い上がり、それを吸入することでも感染してしまいます。もちろん、一般的な食中毒のように汚染された食品からも感染します。特に、カキなどの二枚貝には注意が必要です。生食用以外のカキは、十分に加熱してから食べるようにしましょう。

●感染性胃腸炎をもたらす病原体の潜伏期間

感染性胃腸炎をもたらす病原体はさまざまで、種類によって潜伏期間も異なります。


  • 潜伏期間が1日以内

    セレウス菌による感染症は「嘔吐型」「下痢型」の2種類あるのですが、このうち「嘔吐型」では30分から6時間という短時間で発症します。黄色ブドウ球菌や腸炎ビブリオ、ボツリヌス菌も1日以内に発症します(ボツリヌス菌の場合は4-36時間とされています)。

  • 潜伏期間が1日以上

    ノロウイルスの潜伏期間は1-2日程度です。カンピロバクターは2-7日、病原性大腸菌では3-8日の潜伏期間を有しています。

●完治までにかかる期間


感染性胃腸炎と一口にいっても、原因・症状もさまざまです。比較的軽度だった場合には24時間ほどで症状が治まってくることもあります。比較的症状が重い場合でも、下痢や嘔吐は数日-1週間ほどで落ち着いてくるでしょう。


しかし、症状が出なくなったからといって「完治」したのかというとそうとも言い切れません。どういうことかというと、症状が落ち着いた後でも感染者の体内に病原体が残っていて、便などとして排出している場合があるのです。


似たようなケースでインフルエンザなどに感染した場合、周囲に病原菌を拡散させないために学校を休むことがあります。通常の病欠ではなく「出席停止」といいますが、感染性胃腸炎でもこれに当てはまる場合があります。ただし、期間について3日とか1週間というように明確に定められているのではなく「伝染のおそれがないと認められるまで」とされています。完治までは個人差もあるので、医師の診察を受ける必要があるということです。なお、企業の場合は法律などによる規定がなく、企業単位での対応となっています。

■感染性胃腸炎の症状って?

感染性胃腸炎の主な症状は、腹痛、下痢、血便、発熱、嘔吐です。また、下痢や嘔吐により脱水症状を起こすこともあります。

■感染性胃腸炎を予防するには?


感染性胃腸炎の予防方法は、ほぼ食中毒の予防法と同じだと考えられます。つまり、病原体を「付けない」「増やさない」「処理する」ということです。うがい、手洗いを実践しているという人でも、次のようなことを意識してみましょう。


  • 調理器具を使い回さない

    生肉を調理した包丁やまな板、生肉をつかんだトングや箸、汁の残ったお皿などから、ほかの食材や調理をした人の手などに病原体が付着することがあります。生野菜など、加熱をしない食材から先に切る、使用した調理器具はすぐに洗う、使い回さないということを徹底しましょう。調理器具は熱湯を掛けると消毒になります。

  • 調理時に手を清潔に保つ

    生肉を触った後などは面倒でも手を洗うようにしましょう。バーベキューなどで肉を焼きながらおにぎりを作るなどといったときは特に注意が必要です。手袋やラップを使って直接手で触らないようにするというのも効果があります。

  • 食材はしっかり加熱する

    カキなどの二枚貝、肉、レバーなどは十分に加熱して食べましょう。また、魚に寄生するアニサキスの場合は、冷凍することで死滅します。覚えておきましょう。

  • 早く食べる

    肉、割ってしまった卵、調理したご飯や麺などはなるべく早く食べましょう。雑菌が付いて繁殖してしまうことがあるので、どうしてもすぐに食べられない場合はラップをかけて冷蔵庫で保存しましょう。


インフルエンザなどの伝染病では予防接種を受けられるものもありますが、感染性胃腸炎に関しては、児童がかかるとされるロタウイルス以外では有効なワクチンがまだ開発されていません。調理器具や食器はしっかり洗うなど、自分の身は自分で守りましょう。食中毒の疑いがあった場合は、すぐに病院に行きましょう。


(藤野晶@dcp)