性病は、自分がどんなに気を付けていてもうつってしまうことがあります。特にいま、気をつけたいのが「梅毒」です。これは近年、日本全国で感染する人が急増しているのです。梅毒とは、いったいどのような病気なのでしょうか?
記事監修
加藤智子 先生
産婦人科医。浜松医科大学医学部医学科卒業、社会医療法人財団新和会八千代病院、三河安城クリニック勤務。日本産科婦人科学会(専門医)、日本医師会(認定産業医)、日本抗加齢医学会(専門医)、NPO法人女性と加齢のヘルスケア学会(更年期カウンセラー)、日本産婦人科内視鏡学会、日本女性心身医学会、検診マンモグラフィ読影認定医、日本気象予報士会東海支部(気象予報士)。女医+(じょいぷらす)所属。
▼詳細プロフィール
■梅毒患者は2011年以降に急増!
梅毒はかつて日本で猛威を振るった病気でした。しかし、抗生物質で治療できることが分かり、医療現場にペニシリンが登場してからは梅毒も沈静化する方向になりました。実際、梅毒による死者数、また罹患(りかん)する人は減少していたのです。
しかし近年、梅毒患者の急増が報告されています。まずは下のグラフを見てください。
このように2011年以降梅毒患者数は急に増えているのです。事態を重く見た厚生労働省は、資料を公表するなどして注意喚起を行っています。
■「梅毒」とはどんな病気!?
梅毒は「梅毒トレポネーマ」という菌が引き起こす感染症です。セックス、それに類する行為(オーラルセックスなど)によって感染することがほとんどであるため「性病」「性感染症」のひとつに挙げられます。
梅毒は全身に症状が現れますが、潜伏期間があり、そのため「治った」などと自己判断してしまう危険もある厄介な病気です。一般的には、以下のような症状が段階的に現れます。
●梅毒の症状
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第I期
感染後約3週間後に梅毒トレポネーマが侵入した場所が硬くなったり、潰瘍ができるなどします。痛くはないのですがリンパ節が腫れることがあります。治療をしなくても、数週間で症状は軽くなります。
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第II期
第I期の症状がいったん消えた後、4-10週間の潜伏期間があり、その後、手のひら、足の裏などを含む全身に、
・皮疹(皮膚に現れる発疹)
・粘膜疹(粘膜組織に現れる発疹)
・扁平(へんぺい)コンジローマ(外陰部、会陰部、脇の下などに発生する多量の扁平な隆起)
・脱毛
などが現れます。発熱、けんたい感があり、泌尿器系、中枢神経系、筋骨格系に異常が見られることがあります。無治療でも、数週間から数カ月で症状は軽くなります。
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潜伏期
第I期、第II期の症状がいったん消失します。しかし、もちろん治癒したわけではありません。
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晩期
無治療の場合には、約1/3では晩期症状が起こります。数年-数十年の後期潜伏梅毒の経過から、長い非特異的肉芽腫様病変(ゴム腫)、進行性の大動脈拡張を主体とする心血管梅毒、進行まひ、脊髄癆(せきずいろう:脊髄の後根と後索が変性し、下肢の激痛などの症状が現れる)等に代表される神経梅毒に進んでしまいます。
⇒データ引用元:『国立感染症研究所』「梅毒とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/syphilis/392-encyclopedia/465-syphilis-info.html
■梅毒の治療方法とは?
梅毒は抗生物質によって治療できます。
『日本性感染症学会』の「性感染症 診断・治療 ガイドライン 2016」によれば、「バイシリンG(ベンジルペニシリンベンザチン)」を投与することが推奨されています。
バイシリンGは、強力な殺菌作用のある抗生物質「ペニシリン」で、治療開始後数時間で梅毒トレポネーマが破壊されます。これにより「39℃前後の発熱、全身けんたい感、悪寒、頭痛、筋肉痛、発疹の増悪がみられることがあり」ますが、これは薬の副作用ではありません。完治までにかかる治療期間は6カ月ほどとされています。
ペニシリンの投与で治療できるため、先進国では現在梅毒による死者はほとんど見られません。しかし、放置すれば死に至る重篤な病気であることに変わりはありません。
⇒参照記事:『一般社団法人 日本性感染症学会』「性感染症 診断・治療 ガイドライン 2016」
梅毒に感染する患者数では男性のほうが多いですが、上掲の図のように女性の患者数も増加しています。用心のためにコンドームを着けてセックスをしても、オーラルセックスなどでも感染する可能性があります。梅毒はペニシリンで治すことができますが、完治するのに半年ほど必要になる厄介な病気です。
心配な場合は、血液検査で調べることができます。初期症状があったらすぐに専門医を受診するようにしてください。
(高橋モータース@dcp)