検索
もしかして「アルコール依存症」?原因と症状について、医師に聞いてみた。

2017.04.14

もしかして「アルコール依存症」?原因と症状について、医師に聞いてみた。


「キッチンドランカー」なんて言葉が一般的になっているように、アルコール依存症の方は増加傾向にあります。働く女性は飲酒機会も増えますよね。知らず知らずのうち、アルコールに依存しているということもあるかもしれません。


今回は、アルコール依存症について『医療法人社団 榎会 榎本クリニック』の山下悠毅院長にお話を伺いました。

取材協力・監修


山下悠毅医師


帝京大学医学部卒業。東横恵愛病院医局員、たわらクリニック院長等を経て、2015年(平成28年)8月より榎本クリニック院長。日本精神神経学会認定精神科専門医 精神保健指定医 日本医師会認定産業医。専門は、依存症(ギャンブル、性、アルコール、薬物)と不安障害(パニック障害、社交不安障害)。


⇒山下先生のブログ「プラセボのレシピ」

http://www.0004s.com/app-def/S-102/blog/


⇒『医療法人社団 榎会 榎本クリニック』公式サイト

http://www.enomoto-clinic.jp/

■自分は「アルコール依存症」?チェックするには?

――アルコールをたしなむ女性も増えていますが、「アルコール依存症」とそうでない場合で、何かはっきりとした境界線はあるのでしょうか?


山下院長 医学的には「止めたくても止められない」、これが依存症の定義です。つまり、ただ「ハマっている」だけの方はいわゆる愛好家です。


ただし、自分が愛好家なのか、依存症なのかを判断することは非常に困難です。なぜならアルコール、オンラインゲーム、ギャンブルなどにハマっている人は、全員「自分はまだギリでセーフ」、つまり、


「自分はいつでもやめられる」


と感じているからです。しかし、愛好家であっても依存症になってしまうと、もはやお酒を「自分の力」ではやめることができなくなり、人生に破綻をきたしてしまうのです。


――ということは、もし「毎晩ビールを1,500ml飲んでいます」という女性も、その習慣をキッパリとやめられたなら、その人は依存症ではない、ということですか?


山下院長 そのとおりです。「習慣性がない」、つまり飲まない日を自分で設けることができる(具体的には連続週休2日制です)方は、大丈夫です。


しかし、たとえ350mlであっても「毎晩ビールを飲まないと寝られない」なんて方は危険です。徐々に酒量が増えていき「休日は昼間から」、それが数年して「仕事中もランチビールが欠かせない」、そしてついには「出勤前も活力が出るので一杯」となる方がいらっしゃいます。


そして、職場で「お酒臭い」とうわさされるようになると、半年から1年で、アルコールが原因で仕事のミスを繰り返し、ついには職場を解雇となります。大袈裟でなく、こうした経緯で「アルコール依存症を治したいです」と家族に連れられて受診となるケースを、私はこれまで何例も経験してきました。

■なぜ依存が起こるのか?

――そもそもなぜアルコール依存が起こるのでしょうか?


山下院長 アルコールに限らず「依存症」と呼ばれる病気は、全て脳内で分泌される「ドパミン」という神経伝達物質が影響しています。


このドパミンという物質は「報酬系」と呼ばれており、何か大きなことを成し遂げた瞬間(長い仕事が終わる、希望の学校に受かる、やっと大好きな彼と初デート等)に分泌され、強い「幸福感」をもたらしてくれるものです。


ドパミンは、結果をリアルにイメージできたときに出る「やる気のスイッチ」でもあります。「夜中に少しだけ掃除を始めたら急に意欲が沸いて延々と続けてしまった」なんて経験は誰しもあると思いますが、あれも、まさしくドパミンの働きです。


――ドパミンはアルコール依存にどのように関連しているのですか?


山下院長 なぜ多くの人がアルコールにハマっていくのでしょうか。それは、アルコールを摂取すると脳内でドパミンが分泌されるからです。たとえどんなに仕事で疲れていても(やもしたら徹夜明けでも)、飲み屋さんでビールを頼み、たった一口飲んだだけで、「いやー、お疲れさま」と笑顔になり饒舌(じょうぜつ)になる、なんて光景は誰もが見たことがあるはずです。


本来は「面倒な仕事を頑張って終える」なんてことをしなければ分泌されないドパミンを、ちょっと飲むだけで簡単に脳内へ分泌させることができてしまう、これが、人がお酒に依存をしていく理由です。

■なぜ依存が進行するのか ?

――なるほど。ではアルコール依存が進行するのはなぜでしょうか?


山下院長 本来、ドパミンは頑張ったあとに出る「報酬物質」です。受験勉強・長期の仕事・人気ラーメン店での行列待ち、私たちがこうした億劫なことを頑張れるのも、達成後のリアルなイメージを持つことで脳内にドパミンが分泌され、それによって「やる気」が出現するからです。


目標が達成された際にはさらに大量のドパミンが出て「幸福感」が得られる。それがゆえに、私たちは頑張ることができるのです。しかし、もしもこのドパミンをお酒で簡単に出す習慣がついたらどうなるでしょうか。もう、わざわざ時間をかけて面倒なことを成し遂げることが馬鹿らしくなっていくのです。


――そういうメカニズムができてしまうのですね。


山下院長 アルコールにはもうひとつやっかいな特性があります。それは「耐性」と呼ばれるものです。実は、脳のドパミンを分泌する細胞は、何度も刺激を受けていくと疲弊を起こし、同程度の刺激ではドパミンが分泌されなくなってしまうのです。


私はこれを「ドパミン分泌細胞の不感症」と呼んでいます。すると、それを代償するためには、より強いアルコールや、より多くのアルコール摂取が必要となってしまうのです。


――脳が刺激に慣れてしますのですね。


山下院長 話はこれだけでは終わりません。一方で、日常での仕事や恋愛はどうなるでしょうか。これらから得られる刺激(達成感など)は、アルコールの様に自分で簡単に増やすことはできません。


つまり、仕事や恋愛で頑張って何かを達成しても、そのレベルの刺激では、もはやドパミンが出なくなってしまうのです。結果、「お酒のほうが、仕事や恋愛よりも大切」と考えてしまう「症状」が出現してしまうのです。こうして、依存はどんどん進行していきます。


――怖い話ですね。そうして自分ではやめられなくなる、と。


山下院長 もちろん、実際は本人だって心のどこかで仕事をしないとまずいことは分かっています。しかし、以前のような「頑張るぞ」という活力(ドパミンの放出)は、もはや仕事の達成後の状態をイメージしても出てきません。


その原因は「不感症となったドパミン分泌細胞」です。そこで、こうした方はやむなく朝からお酒を飲み、なんとかしてドパミンを搾り出して仕事に行くのです。こうして「職場で、お酒臭い」とうわさされるようになると、「半年から1年で……」という冒頭の話につながっていくわけです。

■アルコール依存症にならないためには?

――アルコール依存症にならないためにはどうすればいいのでしょうか?


山下院長 繰り返しになりますが、依存のスタートは習慣性です。

  • 毎日缶ビールを350ml飲む人

  • 飲むのは3日に1度だが、飲む際はワインを2本開けてしまう人

依存症になるリスクが圧倒的に高いのは前者です。(肝機能障害は後者かもしれませんが )つまり、常習だけは絶対にやめるべきです。こうした人が、何かのストレス(仕事のトラブル、失恋、ペットロスなど)を契機に毎晩の摂取量が増え、そこから依存症が一気に進行してしまう可能性もあります。


――なるほど。つまり習慣性を持たないようにするのが良い?


山下院長 はい。まずはアルコールを毎晩飲む生活習慣の方は「連続週休2日制」にしてみてください。これは私自身も実践しています。

■診察を受けるキーワードは「常習性」です

――「アルコール依存の治療を受けたほうがいい」という判断はどのタイミングですればいいのでしょうか?


山下院長 実は、これは自分の直感を信じることがとても大切です。依存症はいくら専門医が治療の必要性を説いたところで何も治療は始まりません。自分で「治療を受けたほうがいいかも」と少しでも思ったら専門医へ相談にかかってみてください。


もちろんそこでのキーワードは「常習性」です。また「お酒がないと眠れない」、こうした方も依存症になるリスクがありますので必ず専門医へ相談をしてください。


――実際の患者さんはどのような様子なのでしょうか?


山下院長 依存症の患者さんを診察すると、「私は純粋にお酒の味が好きなんです」と、話す方もいます。そんな際、私は次のように質問をするわけです。「では、子供のころに初めてお酒を飲んだときも、おいしい、と感じたわけですね」と。


すると「いえ、そのときは『大人はなんでこんなまずいものを飲むの?』と思いました」と、答えが返ってきます。つまり、「お酒の味が好き」なんていうのもそれは錯覚に過ぎず、実は「お酒を飲むとドパミンが出て幸福感を得られるから飲む」というのが脳科学的には真実なわけです。


――たしかに、お酒もタバコも、初体験のときに「おいしい」という人はいませんものね。


山下院長 自分では依存症じゃないと思っていても、ほかの人から見れば「これはアルコール依存症だ」というケースも多々あります。実際、肉親、夫や兄弟姉妹に連れられてクリニックにいらっしゃる人も少なくありません。


冒頭でも述べましたが「自分は、まだギリでセーフ」、これは誰もが思っていることです。もし、少しでも「自分は危ないかも」と感じた方は、まずは専門医を受診され、ご相談されることをおすすめいたします。


――ありがとうございました。



働く女性の場合は「家飲み」を楽しむ人が多い、なんていわれます。一生懸命働いた自分へのごほうびにというのは素敵なことですが、それが毎日の習慣になっているなら一度セルフチェックをしてみましょう。あなたは引き返せますか?



(高橋モータース@dcp)