よく「女性ホルモンの乱れで生理不順になる」とか「生理痛がひどくなる」などといいます。なぜかネガティブなイメージが強い「女性ホルモン」ですが、本来はどんな働きをするものなのでしょうか。「乱れ」させないためにはどうしたらいいの?今回は「女性ホルモン」について解説します。
記事監修
加藤智子 先生
産婦人科医。浜松医科大学医学部医学科卒業、社会医療法人財団新和会八千代病院、三河安城クリニック勤務。日本産科婦人科学会(専門医)、日本医師会(認定産業医)、日本抗加齢医学会(専門医)、NPO法人女性と加齢のヘルスケア学会(更年期カウンセラー)、日本産婦人科内視鏡学会、日本女性心身医学会、検診マンモグラフィ読影認定医、日本気象予報士会東海支部(気象予報士)。女医+(じょいぷらす)所属。
▼詳細プロフィール
■「女性ホルモン」ってどういうもの?
まず「ホルモン」とは、全身の至るところで作られる微量の物質で、それぞれが健康維持のために働いています。現在では、100種類以上のホルモンが発見されています。よく知られているものにはインスリン、アドレナリン、甲状腺ホルモンなどがあります。
ホルモンの中には「性ホルモン」といって、生殖や性に関係する働きを持つホルモンがあります。性ホルモンは「雄性ホルモン」と「雌性ホルモン」に分類できますが、特にヒトの場合は「男性ホルモン」、「女性ホルモン」と呼びます。エストロゲン、プロゲステロンは、代表的な女性ホルモンです。
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卵胞(らんぽう)ホルモン「エストロゲン」
エストロゲンは卵巣で作られ、全身にはたらく重要な女性ホルモンです。特に大きな働きとしては、乳房や性器を発達させ、女性特有の丸みを帯びた体つきを形成させることが挙げられます。
そしてもうひとつ大切なのが、月経の周期をコントロールすることです。一定の周期で分泌量が変化し、女性の心身に大きな影響を与えます。エストロゲンは排卵前に分泌量が増加し、気持ちを明るくしたり代謝を促す働きがあります。排卵日の前になると心身の調子が良くなってくるのはこのエストロゲンの働きによるものです。
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黄体ホルモン「プロゲステロン」
プロゲステロンもまた、卵巣で作られる女性ホルモンです。このホルモンは妊娠しやすくなるように準備をする働きがあります。具体的には子宮内膜を厚く維持し、受精卵が着床しやすくなるようにするのです。プロゲステロンもまた、月経の周期に応じて分泌量が変化し、さまざまな影響を及ぼします。
排卵後から月経前にはプロゲステロンの分泌量が増加します。食欲が増したり、眠くなる、いらいらする、憂鬱(ゆううつ)になるといった精神的な変化は、このプロゲステロンが作用することによって起こります。
■ホルモンバランスが乱れるとどうなる?
ホルモンは、もともと「ごく微量」で作用する物質です。そのため、わずかでも分泌量が狂えば、それだけでうまく作用しなくなってしまいます。ホルモンバランスの乱れは次のような問題を引き起こす可能性もあります。
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月経不順
月経のサイクルは、分泌される女性ホルモンの量によってコントロールされています。女性ホルモンのバランスが乱れると月経のサイクルにも影響を及ぼし、月経の周期が乱れてしまいます。
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子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)
子宮内や、その周りにできる良性の腫瘍です。この腫瘍はエストロゲンの働きによって大きくなります。目に見える症状としては、月経時の出血が多くなります。このほか、月経時以外でも出血したり、腰痛、トイレが近くなるといった症状も現れます。
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不正出血
子宮内膜が刺激され、剥がれてしまうことにより出血が起こります。ホルモンバランスの乱れ以外にも、子宮筋腫や子宮がんが原因で起こることもあります。不正出血が頻繁にあるようなら、速やかに病院で検査を受けたほうが良いでしょう。
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高プロラクチン血症
「プロラクチン」が過剰に分泌される病気で、排卵障害や不妊の原因にもなります。プロラクチンは、乳汁(にゅうじゅう)の生産を促す働きを持つ女性ホルモンです。
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骨粗しょう症
女性ホルモンには骨を強くする働きもあります。女性ホルモンの分泌量が減少すると、この働きも弱くなり、骨粗しょう症を起こしやすくなります。骨がもろくなり、転んで手を突いたりくしゃみをしただけでも骨折することがあります。
閉経後の女性に骨粗しょう症が多いのは、女性ホルモンの分泌量が減ることがその理由のひとつです。
■ホルモンバランスを整えるには?
ホルモンバランスが乱れると、体にさまざまな影響を及ぼします。バランスを整えるためには、次のようなことに取り組んでみるといいでしょう。
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基礎体温を測定する
毎朝起床時に体温を測定します。最低でも3カ月は測定し、データを取りましょう。これにより、月経のサイクルやコンディションを知ることができます。排卵や月経がいつごろになるのかも予測でき、素早くトラブルに対応できるようになります。
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心身を休める
ホルモンの多くは眠っているときに分泌されます。適切にホルモンを分泌させるため、質の良い睡眠が得られるようにしましょう。また、ぬるめのお湯に入浴するのも効果的です。体を温め、気持ちをリラックスさせることができます。
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栄養バランスの取れた食事をする
ホルモンバランスを整えるためにお勧めなのが、豆腐や納豆などの大豆製品です。大豆には、女性ホルモンと同様の働きを持つ大豆イソフラボンが豊富に含まれています。とはいえ、過剰に摂取するのも問題があります。食事で十分に補っているのであれば、サプリメントなどでさらに摂取する必要はありません。
そのほかビタミンB6、ビタミンEなども積極的に取ると良いでしょう。これらには、女性ホルモンの分泌を促す効果があります。ビタミンB6はマグロやカツオ、レバーなど、ビタミンEはアボカドやカボチャ、ウナギなどに豊富に含まれています。
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適度な運動を行う
適度な運動は、自律神経のバランスを整えるのにも役立ちます。脳内の「ホルモンの分泌を促す部分」と「自律神経をつかさどる部分」は近くにあり、相互に影響を与えます。自律神経のバランスが整うことは、ホルモンバランスを整えることにつながるのです。
運動といっても、競技レベルの激しい運動である必要はありません。散歩程度の軽い運動でも効果が期待できますので、無理のない範囲で取り入れましょう。
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たばこ、お酒を控える
喫煙は全身の血行に悪影響を与え、卵巣の働きも低下させます。つまり、女性ホルモンの分泌にも影響を与えるのです。また、長期間にわたって飲酒を続けていると、ホルモンのバランスを崩します。その結果、月経の周期が乱れたり、場合によっては閉経の時期を早めてしまうという報告もあります。
完全にやめるのが難しいとしても、月経のサイクルが乱れていたり、ホルモンバランスの乱れによる体調不良が疑わしいようなときには量を減らす努力をしましょう。
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過度なダイエットを中止する
ダイエットの手法にもよりますが、多くは食事制限などを伴います。無理なダイエットはホルモンバランスの乱れにつながることがあります。すると、月経にも異常を引き起こしてしまいます。
月経のサイクルが乱れていたり、体に異変を感じるような場合にはダイエットは中止し、しっかりと栄養を取るようにしましょう。
女性ホルモンは、毎日を快適に過ごすために重要な役割を担っています。その一方で、ちょっとしたことでバランスを崩し、体の不調を引き起こしてしまう可能性も……。今回ご紹介した内容を参考に生活を改善して、女性ホルモンと上手く付き合っていきましょう。
(藤野晶@dcp)