みんなでワイワイするような場では平気でも、1対1だと、どうも緊張してしまい、会話が噛み合わなくなる…、という経験はありませんか?そんな方は、「ペーシング」を身につけると、相手に良い印象を与え、スムーズなコミュニケーションを図ることができます。そこで今回は、ペーシングの方法について、マナー講師の筆者がお伝えいたします。

■ペーシングとは?

ペーシングとは、「相手に合わせること」です。具体的には、声の大きさ、話すスピード、仕草や態度を相手に似せる、ということ。


ペーシングをすると、相手に「この人は自分の気持ちをわかってくれている」「自分に同意してくれている」といった好印象だけでなく、安心感や、信頼感を与えることができます。

■「言葉」のペーシング

まずは「言葉のペーシング」から始めましょう。言葉のペーシングとは、「言語を使って相手に合わせるペーシング」のことです。


たとえば、大きな声を出す人には、自分もいつもより大きな声で話す。早口で話す人に対しては、自分もいつもより早口で話すようにします。また、言葉遣いがとても丁寧な人には、同じように丁寧な言葉で接してみましょう。


すると、会話のリズムが自然と調和し、お互いに心地よく、会話を進めやすくなるのです。特に出身地が同じ相手とは、意識的に方言を入れ込むのも効果的。相手から親近感を得やすくなります。

■「言葉以外」のペーシング

次は「言葉以外のペーシング」です。相手が背筋を伸ばしてまっすぐに座っていたら、こちらも姿勢を正しましょう。逆に相手がリラックスしているようであれば、姿勢を崩してみてください。相手がうなずいたら、同じタイミングでうなずき、呼吸のタイミングも意識して合わせていきます。


さらに、話が盛り上がって相手が身振り、手振りをしながら話をしていたら、合わせて体を動かすのも効果があります。露骨にやりすぎてモノマネにならないよう、相手のリズムに合わせて自然に合わせていきましょう。

■相手に共感することが大切!

相手の話の腰を折らず、内容に興味を持つことがいちばん大切です。これは簡単なことのようで、意外と難しいもの。友人やパートナーとの会話の中でも、ミスペーシングをしている方がとても多いです。


その例として、私が接客の研修を行っていたサロンにて、お客様とスタッフの間で実際にあった会話をご紹介します。

お客様

「先日、休暇をとって韓国に旅行してきたの。」


スタッフ

「へぇー、いいですね!」


お客様

「東大門の近くで、おいしいカルビを食べたわ。」


スタッフ

「え、カルビは絶対、明洞ですよー!」


お客様

「そうなの?でも私が食べたところも、とてもおいしかったわ。」


スタッフ

「明洞で〇〇〇というお店があって、そこが有名なんですよ。」


お客様

「そうなのね…。」

いかがでしょうか?一見、韓国のカルビについて会話が盛り上がっているようですが、楽しそうにお話しされていたお客様、なんだか最後は寂しそうです。


あとからこのスタッフにヒアリングしたところ、決してお客様の思い出を否定したかったわけではなく、親切心で、韓国通でもある自分の知識をお客様にお伝えしたかったとのこと。


しかし、この場合は親切心ではなく「大きなお世話」になってしまいました。カルビがどのようにおいしかったのか、東大門のどこにある店なのか、など、お客様が話してくださった内容自体に、興味を持ち、「共感」すること。これもペーシングのテクニックです。

■ペーシングが成功したらリーディングへ

上手なペーシングにより、相手が自分に好意的な関心を持って防衛機能が解けると、驚くほど相手の本音が聞きだせるようになります。


そして「次に何を話そうか」、などと頭で考えなくても、自然と会話が進みやすくなるのです。


ここまできたら、話のテーマや内容などを自分自身のペースでリードしていく「リーディング」のチャンス。リーディングとは、相手をコントロールする、という意味ではありません。相手に、自分が望む方向へ進んでもらえるような、情報や判断の軸を投げかける、という技法です。


例として先ほどのお客様とスタッフとのミスペーシングの会話を、ペーシングからリーディングをする会話に変えてみましょう。

お客様

「先日、休暇をとって韓国に旅行してきたの。」


スタッフ

「韓国ですか」(言い返しのペーシング)


お客様

「東大門の近くで、おいしいカルビを食べたわ。」


スタッフ

「へぇー、やっぱり本場は違うんですか?」(話への興味)


お客様

「それがね、単なる焼き肉じゃなくて、チーズを絡めて食べるのよ。」


スタッフ

「わぁー!チーズ!おいしそう!」(共感)


お客様

「最近はやってるみたいなのよ。」


スタッフ

「そうなんですか!そういえば、明洞にもカルビがおいしいお店があるって聞いたことがあります。」(情報提供からのリーディング)


お客様

「そうなの?どんなお店なのかしら」

いかがでしょうか?韓国通のスタッフがお客様に、明洞のおいしいカルビの店の話をする、という内容は同じですが、お互いに楽しそうな雰囲気なのがわかると思います。


このように、相手に何かを伝え、自分が望む何らかの思考の変化や行動を起こさせたい場合はリーディングが有効です。ですが、まだ信頼関係がないような相手との会話においては、いきなりリーディングを行わず、ペーシングから始めましょう。


まずはしっかりとペーシングを成功させて、相手と良好な関係を作らなければ、単なる自己中心的な会話になってしまいます。



ペーシングはコミュニケーションスキルのテクニックのひとつですが、実は仲の良い友達や家族との会話では、意識せずとも自然に行っているものです。難しく考えずに、相手の発話に対して、少しだけ敏感になってみましょう。相手の癖や、傾向がだんだんとわかってくるはずです。


そして相手の話に心から興味と関心を持つ。これが信頼関係につながってきます。緊張やプレッシャーはお互い様。ぜひ前向きにチャレンジしてみてくださいね。



(三ツ矢玲子/マナーインストラクター)