道を歩いているとき、食事しているとき、ベッドに入ったとき……気づくと手にしてしまうスマホ。知りたい情報も娯楽もコミュニケーションも、手のひらの上だけで補える便利さが魅力の一方で、「スマホ依存症」という言葉ができるほど、病的にスマホを手放せない人も増えています。
スマホの充電も毎月のギガも、減りが早いな〜とのんきに思っていたあなたも、もしかしたらスマホ依存症かもしれませんよ。症状の実態や弊害、治すためにはどうしたらいいのか、「青山すみれクリニック」の精神科医・医学博士の坂本 里江子先生にインタビューしてきました。
取材協力・監修
坂本 里江子 先生
東京・青山「青山すみれクリニック」院長。女性のライフスタイルに合わせた診療を行い、薬以外での療法(精神療法等)や代替療法を積極的に取り入れている。アロマテラピスト、アロマテラピーアドバイザーなどの資格を持ち、2016年にクリニックの隣にアロマテラピーと心理カウンセリングを同時に受けられるサロン「SUZURAN」も開業。
▼青山すみれクリニック
■スマホ依存症の傾向にあるかどうかセルフチェックしてみよう
――「スマホ依存症」は名前の通り、スマホが普及した近年より注目されはじめた症状で、スマホをよく使う20〜30代の女性が多いイメージがあるのですが、実際にはいかがでしょうか。
「その通り、密に関わっている20〜30代にスマホ依存になる方が多いと思います。ただそこに男女差を感じることはありませんね」
――そういった方は、自分でスマホ依存症かもと気づいているのでしょうか。
「当院にはスマホ依存症を主訴に受診されている患者さんはいませんが、やりすぎかな? といった自覚がある人は結構いらっしゃると思います。依存症は、ほかの依存症と併発していることが多いのですが、スマホ依存だとゲームで課金しすぎている人とかネットショッピングで買いすぎてしまうといった、買い物依存と合わさる場合が女性には特に多いですね。スマホ依存症の傾向にあるかどうかがわかるチェックシートを用意したので、セルフチェックしてみてください」
【スマホ依存症の傾向チェックシート】
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(1) 1日中スマホが見られないと、不安で落ち着かない。
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(2) お風呂やトイレ、食事中もスマホが手放せず、見ている。
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(3) 夜にスマホを開いて気づくと朝になっていたことがある。
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(4) 隣の人のスマホが鳴ると、自分のものかと不安で確認してしまう。
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(5) 仕事中も高頻度でスマホを見てしまう。
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(6) 誰かと一緒にいるときもSNSに没頭してしまう。
6つ中、4つ以上当てはまる人は要注意です。
■リアルな人間関係に亀裂が入ったり、体調を崩したりする危険も
――どういう性格の人がスマホ依存症になりやすいのですか?
「のめり込みやすい方や、完璧主義の方でしょうか。Instagramの更新などもきっちりしていないと不安になる人っていますよね。更新が面倒臭いときは仕事じゃないからサボってもいいのに、でもやらなきゃ! ってスマホを開いてしまう。スマホに依存していると、現実の人間関係よりもスマホの人間関係を重要視してしまう方が多いように感じますね」
――チェックリストにもありましたが、友だちと一緒でもスマホをずっと触っている、という大学生くらいの女性をカフェで見かけたことがあります。
「友だちが目の前にいるのに、別の人とLINEを続けている人っていますよね。生返事で、相手の話も聞いていなさそうな感じ。せっかく相手が時間を作って会ってくれているのに失礼ですよね。目の前の空気感、言葉を感じながら話すというリアルな人間関係は優先しないといけないと思うので、スマホばかり触っていると、そういったリアルな人間関係に支障が出てしまう可能性があります」
――人間関係以外に心配される支障はありますか?
「健康面でも悪影響が出る可能性があります。スマホのライトで脳が過剰に活性化して不眠になったり、テキストサム損傷と呼ばれる指の変形・痺れなどの症状が現れたり、小さな画面をずっと見ているので目の疲れや肩こり、ねこ背、頭痛などを引き起こしたりする恐れがあります。動かないから代謝が下がり、太りやすくなったと感じる人もいるかと思います」
――そういった人たちは、どうしたらスマホから離れられるのでしょうか。
「いきなり離れるのは難しいので、少しずつスマホを触らない時間を増やすというところから始めてみてはいかがでしょうか。気づかないうちに課金やネットショッピングをしてしまう人は、アプリによっては規制をかけられたり限度を設定したりできるので、そういったもので使いすぎないように制限しましょう。やりすぎている自覚がないので、気づきのポイントを増やしてあげるといいですよね。
あとは、その他のコミュニケーションの時間を増やしましょう。人と話したり、体を動かしたり。体にほかの刺激を加えてあげながら、スマホがなくても快適だと思える瞬間を増やすことで、意識がスマホ以外にも分散してくれます」
■スマホで得た知識や経験談だけが全てではない!
――少しずつスマホから離れていくとしても、最初は精神的にすごく不安だと思うんです。どういう考え方で苦しさを乗り越えればいいでしょうか。
「まずは自分がスマホ依存症だと自覚すること。その気づきはとても大事なんですよ。だからやめていきたいんだって自分に言い聞かせられますから」
――ゲームにログインしないことでほかの人よりもレベル上げが遅くなっちゃうとか、SNSが更新できなくてフォロワーに心配されたらどうしようとか、スマホ内の人間関係の不安はどのように取り除けばいいでしょうか?
「スマホに数時間関わらないだけで本当に友だちがいなくなるのか。自分の抱えている不安は本当に起こり得ることなのかを再評価してください。離れていくならば所詮、その程度の関係なのです。そのような浅い関係にのめりこんでいる間に、リアルな人間関係が希薄になっていくほうが問題です」
――確かにそうですよね! スマホに夢中になっているということは、その分、リアルな友だちと会えなくなってしまう。フォロワーは数で減るのを目視できるけど、現実では好感度が減っていても数が見えないのが怖いですね。
「フォロワー数は、人生の評価でも人格の評価でもないですよ。それこそログインしなくなったら離れていくこともある程度のものですので、数にそこまでとらわれなくても大丈夫ですよ」
――ああ、すごくハッとしてしまいました……。
「そういう気づきのきっかけがあるといいですよね。リアルの人間関係を振り返ってみて、リアルな出会いのある場に出向いてみるとか。体験は未来の自分を作る糧になりますし、人としての深みにもつながります」
――ネットだけの情報で話す人って、確かに表面的に感じることがありますよね。知っているようで、突っ込んだことを聞くと答えられないとか。
「ネットに書いてある内容をそのまま鵜呑みにしてしまうのも怖いですしね。そのようなところも気づいて、リアルの過ごし方を充実させるように動いてみると、スマホからも自然と離れていけるんじゃないでしょうか」
少しずつスマホから離れていく時間を延ばして、ほかの楽しみを見つけることがスマホ依存症を脱却するポイントのようです。まずは気づくことから。少しでも今の自分の状況に引っかかることがあれば、生活を振り返ってみましょう。スマホ以外にも楽しいことはたくさん。友だちを誘ってリアルの世界を楽しむように動いてみませんか。
(取材・文:西田タニシ 編集:ノオト)