温かい料理や飲みものがおいしい季節。でも、「猫舌」の持ち主は、せっかくのあつあつグルメを冷まさないと食べられなくて、なんだかかわいそう! 猫舌の人と、そうでない人の違いは、舌の構造そのものや、温度を感知する神経などに違いがあるのでしょうか?
青山歯科医院・青葉歯科医院の青山智美理事長にお話をお伺いしました。
取材協力・監修
青山智美 先生
医療法人社団泰青会 青山歯科医院・青葉歯科医院理事長。歯学博士。
大学病院での勤務後、地域に戻り、主に口腔内の外科処置を行っている。地域の幼稚園の園医や企業歯科検診、市の検診や、患者さんに歯の大切さを知ってもらうために院内情報紙「デンタル通信」を発行するなどして、地域貢献に努めている。主なTV出演は、MBS「林先生が驚く初耳学!」TBS「この差ってなんですか?」「ビビット」など。
そもそも、舌の役割とは?
――まずは、舌の役割について教えてください。
青山先生
舌は、主にふたつのシーンにおいて、重要な役割を果たしています。
ひとつは、「発声」するときです。発音するための音を作る機能を「構音(こうおん)」と言います。構音するためには、口腔内の形を自在に変えて音を変化させなくてはなりません。このとき必要になるのが舌です。舌は咽頭、食道、胃へと続いている筋肉で構成されている柔らかい組織で、口腔内で前後左右、自由自在に動かすことができます。舌を動かして、丸めたり伸ばしたりして音を変化させるのです。
もうひとつは、「食べる」ときです。口に食べものが含まれると、味覚、触覚、圧覚、温覚というセンサーを駆使して、人体にとってこの食べものが安全であるかどうかを確認する作業を行っています。舌の表面にある「味蕾(みらい)」という味覚を働かせて、塩味、甘味、酸味、旨味といったおいしさを感じるほか、温度を感知して、内臓が火傷する危険がないかを確認し、触覚、圧覚で食塊(飲み込みやすい形状)にできるがどうかを点検しています。
――猫舌とそうでない人は何が違うのでしょうか?
青山先生
某TV番組の収録で、「猫舌の人」と「そうでない人」の50人に、43℃のお湯に浸けたスプーンを舌の中央、舌背部に当てて温度感覚を検証したことがあります。しかし、温度感覚の大きな差はなく構造的、器質的に個人差は認められませんでした。つまり、人はだいたい同じ温度感覚をもっています。
内臓に大きな火傷を負うと人は死んでしまいますが、舌の火傷は直接生死に関わる可能性が低いので、それほど大差がないと言えるでしょう。
――舌の長さや厚さも、関係ないんでしょうか?
青山先生
はい。舌の長さや厚さが影響することは考えにくいですね。輪郭や歯並びも同様です。食材を加熱して食べる動物は、人間以外いません。すべての動物は猫舌ということになります。ですから猫舌というのが本来の生き物の在り方だと思われます。
――それでは、なにが違うのでしょうか?
生活環境において、熱い食べものが食卓に並ぶかどうか、食べる機会がどれだけあったかの違いで、猫舌と言われる人とそうでない人が出てきているようです。舌をどのようにしたら火傷を負わずに食べることができるか、学習した経験値の違いかと思います。
猫舌は克服できる?
――猫舌は治せますか?
青山先生
そもそも病気ではないので、治すという言葉自体が誤りだと思います。熱いものを少し早く食べたら周りの人と食事タイミングが合うのになぁ、といった程度であれば多少の克服はできます。
――猫舌を克服するためにできることはなんですか?
青山先生
個人的には、猫舌を克服する必要があるかどうかが疑問ではありますが、火傷を負わないようにする防御機能のひとつとして、熱い食べものを食べるときのアドバイスをします。
重要なのは、「姿勢」と「舌のポジション」です。
猫舌の人は、前かがみに背を丸める姿勢を取りがちです。それにより、温度感覚の中でも鋭い舌の先端、舌尖部が熱い食べものに触れてしまうのです。
温かいものを口に入れるときは、やや上向きの態勢をとりましょう。すると舌尖部よりも下顎の前歯が防波堤の役割を果たし、食材が直に触れることを回避できます。
次に、食材は舌の中央部の舌背部に運ばれ、そして後方の咽頭部に食材を送り出していきます。舌の中でも舌背部は温度感覚が鈍い方になり、熱さをあまり感じずに済むのです。
――ありがとうございました。
猫舌ではなく、あつあつの料理を食べるのが大好き! という人は、うまく熱い食材を取り込むことができるがゆえ、口蓋やのどに火傷による水疱を作ってしまう、なんてことがあるそうです。猫舌の人も、そうでない人も、食べ方のコツを掴んでほどほどにあつあつの食事を楽しみましょう!
(取材・文:関紋加 編集:ノオト)