つり革をつかもうとしたとき、肩甲骨のあたりや腕に痺れや痛みを感じたり、冷感があったりすることはありませんか?あまりにも頻繁に起こるようであれば、もしかしたら「胸郭(きょうかく)出口症候群」かもしれません。胸郭出口症候群は女性、特になで肩の方に多いといわれます。いったいどのような病気なのでしょうか。
記事監修
金永優(きん・よんう)先生
韓国 ソウル大学医学部卒業。京都大学大学院医学研究科整形外科学講座にて医学博士取得。京都大学医学部附属病院で研修後、倉敷中央病院、浜松労災病院、京都市立病院、滋賀県立成人病センターに勤務。2017年4月よりフランス・パリのピィティエ・サルペトリエール病院に整形外科医として留学中。医師+(いしぷらす)所属。
▼詳細プロフィール
「胸郭出口症候群」とは?
胸部の背骨である胸椎(きょうつい)と肋骨(ろっこつ)、胸骨(きょうこつ)によって構成されている籠状の構造体を「胸郭」といいます。
「胸郭出口症候群」は胸郭部から上肢にいく神経や血管が締め付けられたり、圧迫されたりすることが原因で起きる病気です。神経や血管の締め付け・圧迫が起きる部位によって「斜角(しゃかく)筋症候群」「肋鎖(ろくさ)症候群」「小胸筋症候群」といい、「胸郭出口症候群」はこれらの総称です。
猫背やスマホの画面をのぞき込むような姿勢、肩を内側に巻き込むような姿勢を長時間続けていると、胸郭出口症候群になりやすいといわれています。長時間のデスクワークなどで姿勢が悪くなっていると感じたら、ストレッチをして筋肉をほぐすといいでしょう。
「胸郭出口症候群」の主な症状は?
胸郭出口症候群の症状としては、
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肩から首・肩甲骨の間にかけての凝り、うずくような痛み
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腕や手の痺れ、痛み
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脱力感や重だるさ
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握力の低下
などがあります。
つり革をつかむ動作や洗濯物を干す動作などの、腕を上に上げる動きによって、上肢が痺れたり、肩や腕が痛んだりします。特定の姿勢や動作によって神経・血管が圧迫され、症状が出るのが特徴です。ほとんどの場合、このような特徴と自覚症状、病歴から診断を行います。
「胸郭出口症候群」をセルフチェックするには?
胸郭出口症候群かどうかを診断するには幾つかのテスト方法がありますが、基本的には医師が行うものです。しかし、「ルーステスト(3分間挙上負荷テスト)」と呼ばれる方法はひとりでも行うことができます。方法は以下のとおりです。
・左右の肘を90度に曲げて、上腕が横に水平になる位置まで上げ、手が上を向くように肩を回旋させる
・その状態で、両手を「グー、パー」と握り、開く動作を3分間続けて行う
手指の痺れや腕のだるさ、痛みといった症状が見られ、3分間持続できずに腕を途中でおろしてしまった場合、胸郭出口症候群のうちの「肋鎖症候群」の可能性があります。ただし、この動作は健康な人でも長く続けるのは簡単ではありません。正確に見極めるには、医師の判断を仰ぎましょう。
「胸郭出口症候群」の治療法って?
胸郭出口症候群において、症状が軽い場合には保存療法を施し、経過を見るのが一般的です。対症療法として肩甲骨周辺のストレッチや筋トレを行い、肩凝りなどの改善を目指したり、症状を悪化させる動作を避け姿勢を改善させるための日常生活指導を行ったりするケースもあります。また抗炎症剤の投与も有効です。
症状が重い場合には、原因となる筋肉や第一肋骨を切除するといった手術を行います。
胸郭出口症候群は骨や筋肉が神経や血管を圧迫することで起こりますが、その原因のひとつは悪い姿勢を取ることだと考えられます。命に関わるような病気ではありませんが、日常生活に支障を来すことはありますので、この病気が疑われる場合は整形外科を受診しましょう。
(藤野晶@dcp)