PTSDという言葉を聞いたことがありますでしょうか? たとえば「戦争や犯罪被害がもとでPTSDに悩まされている」といったニュースを見ることがあるかもしれません。これは、誰でも発症する可能性がある心の病気です。今回は「PTSD」について解説します。
記事監修
森若奈 先生
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、日本医師会認定産業医。精神単科病院、総合病院、クリニック、産業医等様々な場での経験を活かし、現在は予防医学や早期介入にも力を入れている。
女医+(じょいぷらす)所属。
PTSDとは?
「トラウマ」という言葉をご存じでしょうか? これは「心に受けた傷(外傷)」のことで、精神医学では「心的外傷」と呼びます。
心的外傷にもさまざまな種類、程度があります。軽いものであれば心理的な防御手段によってやり過ごしたり、忘れたりといったことが可能です。しかし、心的外傷があまりにも大きく深いと、その傷が残ってしまい、その人を苦しめ続けることがあるのです。
このような、
大きな「心的外傷」を受け、それ以降、日常生活に支障を来すほどのさまざまな精神的な苦痛を感じること、またその症状を「心的外傷後ストレス障害」
といいます。「心的外傷後ストレス障害」は「PTSD」と略されることが多いですが、これは「Post Traumatic Stress Disorder(ポスト・トラウマティック・ストレス・ディスオーダー)」の略です。
大きな傷となる「心的外傷」 PTSDの症状
それ以降の生活にも影響を与えるほどの「心的外傷」には、以下のようなものが挙げられます。
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危うく死ぬ経験
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重症を負う経験
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性的暴力を受ける経験
また、これらを直接経験する(心的外傷的出来事を直接体験する)のでなくても、
1.他人に起こった出来事を直に目撃する
2.近親者または親しい友人に起こった心的外傷的出来事を耳にする
3.心的外傷的出来事の強い不快感を抱く細部に、繰り返しまたは極端にさらされる体験
といったことでも、PTSDの原因となる大きな心的外傷になるのです。
3が分かりにくいかもしれませんが、たとえば児童虐待の相談を受け、虐待の実際や現場を見ることが強いられる相談員さんなどは、3のタイプの心的外傷を受けやすいといえます。
大きな心的外傷を受け、PTSDの症状として現れるのは主に以下のようなものです。生活に入り込み、その人を苦しめるという意味で「侵入症状」とも呼ばれます。
1.心的外傷的出来事の反復的、不随意的、および侵入的で苦痛な記憶
2.夢の内容と感情またはそのいずれかが心的外傷的出来事に関連している、反復的で苦痛な夢
3.心的外傷的出来事が再び起こっているように感じる、またはそのように行動する解離症状
4.心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけにさらされた際の強烈な、または遷延する心理的苦痛
5.心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに対する顕著な生理学的反応
⇒データ引用元:『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』「心的外傷後ストレス障害」p.269
『DSM-5』の定義では、このように難解な言い回しですが、要は、心的外傷となったものが忘れられず、日常生活でも何かをきっかけに思い出され、それが繰り返されるために苦痛を味わうのです。
しかも夢でも繰り返されたり、何かその出来事を象徴するようなものを見聞きするだけでもそれが思い起こされたりして、苦しい思いをし社会生活に支障が出る状態です。
典型的な症状が「フラッシュバック」です。フラッシュバックは、その出来事が鮮明に思い出され、まるで今起こっているようにも感じるという体験です。PTSD患者の多くはフラッシュバックに悩まされるといわれます。
PTSDの治療には非常に時間がかかります。ゆっくりと心的外傷を癒やすことをしなければならないからです。心の疾患は時に身体的な疾患よりも厄介なのです。心身共に健康であるようにしたいものですね。
(高橋モータース@dcp)