病気やケガによる治療で医療費が高額になってしまった場合には、その一部を払い戻してもらえる制度を利用すると良いでしょう。あくまでも公的保険が適用される治療についてのみですが、この制度を利用すれば医療費の自己負担を抑えることができます。今回は「高額療養費制度」についてです。
記事監修
吹田朝子(すいた・ともこ) 先生
『一般社団法人 円流塾』代表理事。CFPR(R)認定者(ファイナンシャルプランナー)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、健康ファイナンシャルプランナー(R)。
一橋大学卒業後、生保会社の企画調査・主計部門を経て1994年より独立。著書多数。
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■「高額療養費制度」の仕組み
国民皆保険制度は日本人が健康に生活するための大事なインフラ。日本人全員が、より安価に必要な医療を受けられるようにするためのものです。公的医療保険には、医療費が高額になってしまったときのための補助を行う仕組みもあります。それが「高額療養費制度」です。
高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払った金額がひと月(月初から月末まで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。
たとえば、病院・薬局で計100万円の医療費がかかったとします。窓口負担が3割の場合※には、支払いを求められるのは「30万円」です。しかし、このケースでは「1カ月ごとの医療費の上限額」(後述)を超えていますので、この30万円のうち21万2,570円は公的医療保険から支給されます。
※69歳以下で年収約370-770万円、自己負担3割の場合です。
計算は以下のようになります。
69歳以下で年収約370-770万円の場合には、1カ月ごとの上限の医療費負担は、
8万100円 + (医療費 - 26万7,000円)× 1%
です。上記の例ですと医療費は100万円ですから、
8万100円 + (100万円 - 26万7,000円)× 1% = 8万7,430円
となります。これがその人の1カ月ごとの上限医療費負担ですので、
30万円 - 8万7,430円 = 21万2,570円
と計算し、3割負担で支払いが求められる30万円のうち「21万2,570円」は公的医療保険から支給されるのです。
⇒データ出典:『厚生労働省』「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(平成29年8月から平成30年7月診療分まで)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000167493.pdf
■1カ月の医療費負担の上限は年齢・年収で違う!
この高額療養費制度では、キーとなる「1カ月の医療費負担の上限」は年齢・年収によって異なっています。
●70歳以上の場合
・年収約370万円~(「現役並み」という区分)
(標準報酬月額28万円以上/課税所得145万円以上)
⇒1カ月ごとの医療費の上限額(世帯ごと)
8万100円 + (医療費 - 26万7,000円) × 1%
・年収約156~370万円(「一般」という区分)
(標準報酬月額26万円以下/課税所得145万円未満等)
⇒1カ月ごとの医療費の上限額(世帯ごと)
5万7,600円
・住民税非課税世帯
⇒1カ月ごとの医療費の上限額(世帯ごと)
2万4,600円
・住民税非課税世帯
(年金収入80万円以下など)
⇒1カ月ごとの医療費の上限額(世帯ごと)
1万5,000円
ひとつの医療機関等での自己負担(院外処方代を含む)では上限額を超えないときでも、同じ月の別の医療機関等での自己負担を合算することができます。この合算額が上限額を超えれば、高額療養費の支給対象となります。
●69歳以下の場合
・年収約1,160万円~
(健保:標準報酬月額83万円以上/国保:旧ただし書き所得901万円超)
⇒1カ月ごとの医療費の上限額(世帯ごと)
25万2,600円 + (医療費 - 84万2,000円) × 1%
・年収約770~1,160万円
(健保:標準報酬月額53~79万円/国保:旧ただし書き所得600~901万円)
⇒1カ月ごとの医療費の上限額(世帯ごと)
16万7,400円 + (医療費 - 55万8,000円) × 1%
・年収約370~770万円
(健保:標準報酬月額28~50万円/国保:旧ただし書き所得210~600万円)
⇒1カ月ごとの医療費の上限額(世帯ごと)
8万100円 + (医療費 - 26万7,000円) × 1%
・年収~約370万円
(健保:標準報酬月額26万円以下/国保:旧ただし書き所得210万円以下)
⇒1カ月ごとの医療費の上限額(世帯ごと)
5万7,600円
・住民税非課税者
⇒1カ月ごとの医療費の上限額(世帯ごと)
3万5,400円
69歳以下でも、ひとつの医療機関等だけではなく、同じ月の別の医療機関等での自己負担を合算することができます(ただし、69歳以下の場合は各医療機関での自己負担が2万1,000円以上であることが必要)。70歳以上と同じく、この合算額が上限額を超えれば、高額療養費の支給対象となります。
■高額療養費制度のポイント
高額療養費制度を利用する際のポイントは以下になります。
●あくまでも暦上で1カ月ごとの上限額を超えた場合に利用可能
(月がまたがって発生した医療費を合算してはいけません)
●対象になるのは保険適用された医療費の自己負担分についてのみ
(入院時の食事代、差額ベッド代、先進医療にかかる費用などは対象になりません)
●過去12カ月以内に3回以上、上限額に達した場合は、4回目から「多数回」該当となり、以下のように上限額が下がります
・70歳以上「現役並み」区分 ⇒ 多数回該当の場合:4万4,400円
・70歳以上「一般」区分 ⇒ 多数回該当の場合:4万4,400円
※70歳以上で「住民税非課税」区分の場合には多数回該当の適用はなし
・69歳以下「年収約1,160万円~」 ⇒ 14万100円
・69歳以下「年収約770~1,160万円」 ⇒ 9万3,000円
・69歳以下「年収約370万円~770万円」 ⇒ 4万4,400円
・69歳以下「年収~約370万円」 ⇒ 4万4,400円
・69歳以下「住民税非課税者」 ⇒ 2万4,600円
医療機関に多くかからなければならない人は、高額療養費制度で受けられる支給が多くなるように設定されているのです。
●高額医療費の支給申請は、自分が加入している公的医療保険(健康保険組合・全国健康保険協会・共済組合・市町村など)に、支給申請書を提出、または郵送して行います。その際には、病院などの領収書の添付を求められることがあります。
●自己負担額は世帯で合算することができます。この世帯は、同一の医療保険に加入する家族を単位として行われるので、会社で働く人やその家族などが加入する健康保険であれば、お互いの住所が異なっていても被保険者と被扶養者の自己負担額を合算し、支給を受けることができます。
人間何が起こるか分かりません。治療費がかさんだり、長期化するのに備えて、高額療養制度というものがあるということは一般常識として知っておいたほうがいいでしょう。また、記事内で紹介したのは2018年(平成30年)7月までのものです。8月からは制度が手直しされますので、その詳細については以下の厚生労働省の資料をご覧ください。
⇒データ出典:『厚生労働省』「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(平成30年8月診療分から)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000161153.pdf
(高橋モータース@dcp)