医学の世界ほどかつての常識が覆されるところはないでしょう。研究が進むにつれて、子供のころに親から言われたことが間違っていたと分かるのも、けっこう多いもの。今回はこうした「覆された」情報のひとつである「カルシウムの働き」について解説します。
記事監修
田嶋美裕 先生
循環器内科医。東京大学医学部卒業、東京大学付属病院勤務。狭心症、心筋梗塞、心不全、不整脈などの循環器疾患のほか、高血圧、糖尿病、脂質異常症など生活習慣病全般の治療に携わる。
女医+(じょいぷらす)所属。
■「カルシウム」は99%が骨・歯に使われる!
カルシウムは必須ミネラルのひとつです。
人間の体内では、新しい骨をつくる「骨形成」と、古くなった骨を壊す「骨吸収」が繰り返されています。この「骨の代謝」はカルシウムがなくてはできません。
体内にあるカルシウムの99%は骨や歯などの硬い組織で使われています。残り1%のカルシウムは、血液・筋肉、細胞内に広く存在して、
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血液を凝固させる
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筋肉を収縮させる
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神経の興奮を抑制する
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(ナトリウムを排出して)血圧上昇を防ぐ
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細胞の機能を調節する
などの役割をしています。
厚生労働省によると、日本人はカルシウムが不足しがちで、成人男性の一日の必要摂取量はだいたい「700mg」です(年代によって異なります)。これを下回るとカルシウムが不足し、上記のような機能が果たせなくなります。
そのため、骨折しやすくなる、骨密度が低下する(これが進行して「骨粗しょう症」になる)、循環器系の疾患、またホルモン分泌の障害などを起こすリスクが高まります。
特に閉経後の女性の場合には、女性ホルモンの減少によって骨の量が減りやすく、骨粗しょう症になりやすいといわれます。そのため、更年期の女性は意識してカルシウムを取るよう心掛けたほうが良いのです。
■「カルシウムをたくさんとったほうがいい」は本当か!?
子供の頃に「牛乳を飲んでカルシウムをたくさんとりなさい」「小魚にはカルシウムが含まれているから食べなさい」なんてお母さんに言われたことがある人もいらっしゃるでしょう。
子供の体の成長にカルシウムが必要なのは確かなのですが、カルシウムは過剰に摂取しても無駄、またあまりに過剰に摂取すると体に悪影響があることが分かってきました。
2012年のアメリカの全国栄養調査によれば、一日に必要な量以上にカルシウムを摂取しても「骨密度に全く変化はなかった」という結果が出ています。
また、必要量以上に摂取すると、
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泌尿器系で結石を起こすリスクが高まる
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鉄・亜鉛・マグネシウムなど、ほかのミネラルの摂取を阻害する
といったことが起きるのです。
■カルシウムの摂取は難しい!?
また、不足しがちなカルシウムはサプリメントでとろう、と考えがちです。しかし、近年の研究によれば、カルシウムのサプリメントは、
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逆に骨折のリスクを高める
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心臓発作のリスクを高める
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脳卒中のリスクを高める
といわれています。
つまり、カルシウムは体に必須のミネラルなのですが、
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必要量を毎日の食事からとる
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過剰にとり過ぎない
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サプリメントからとらない
を守って摂取しないといけないのです。毎日継続的にとらないといけませんから「難しい」と感じるかもしれませんね。
カルシウムの吸収率は食品によってずいぶん異なります。牛乳・乳製品は吸収率が約50%と高率(小魚は約30%)ですから、「牛乳」「ヨーグルト」を毎日きちんと飲む・食べるようにしましょう。また、カルシウムの吸収を助けるビタミンD(魚介類、卵、きのこ類に多く含まれる)も一緒に摂取すると、より効率よくカルシウムを摂取できるでしょう。
(高橋モータース@dcp)